経鼻内視鏡下下垂体手術後の静脈血栓塞栓症予防のためのヘパリン投与

公開日:

2022年3月22日  

Venous thromboembolism chemical prophylaxis after endoscopic trans-sphenoidal pituitary surgery

Author:

Waqar M  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Manchester Centre for Clinical Neurosciences, Salford Royal NHS Foundation Trust, Manchester, UK

⇒ PubMedで読む[PMID:34843070]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2022 Apr
巻数:25(2)
開始ページ:267

【背景】

米国の医療費支払いデータベースを用いた解析(2015年)によれば,経蝶形骨洞手術後の静脈血栓塞栓症(VTE)は2.1%の頻度で発生している(文献1).頻度は低いが,VTEが一旦発生すれば重篤な結果につながりかねず,その予防は大切である.英国マンチェスター大学のチームは過去10年間の自験の下垂体手術651例(年齢中央値55歳,99%が経蝶形骨洞手術,80%が下垂体腺腫,78例のクッシング病を含む)を元に術後低分子ヘパリン投与によるVTEの予防効果について解析した.全症例で入院期間中の弾性ストッキングの着用と手術中の下肢の間欠的空気圧迫が行われた.

【結論】

73%の患者に対して,低分子ヘパリン(97%がTinzaparin,3%がEnoxaparin)を手術後中央値1日で開始し,中央値2日間投与した.低分子ヘパリン投与量中央値はTinzaparin 4,500単位,Enoxaparin 40 mgであった.手術後3ヵ月間のVTEは,低分子ヘパリン投与群でも非投与群でも0%であった.
651例全体では6例(1%)で術後の症候性腫瘍内血腫が生じた.低分子ヘパリン投与群で5例(1.0%),非投与群で1例(0.6%)で,両群間に差はなかった(p>.99).鼻出血は低分子ヘパリン投与中で1%,非投与患者で2%で認められ,こちらも両群間に差はなかった.

【評価】

既に開頭手術後の低分子ヘパリン投与がVTEの予防に有効であるとのメタ解析の結果が示されているが(文献2),本研究は経蝶形骨洞手術における低分子ヘパリン投与の有効性も示したことになる.
手術後のVTEの予防には早期離床,弾性ストッキングの使用,間欠的空気圧迫法などの手法が,手術のリスクと患者が有するリスクに基づいて施行され,最高リスクの患者にはヘパリンの投与が行われる.本研究では,全症例での弾性ストッキングの着用と手術中の間欠的空気圧迫に加えて,73%の患者に対して低分子ヘパリンを投与したものである.本研究対象では低分子ヘパリン非投与群でもVTEは起こっていないが,これは上記の一般的なVTEの予防策がルーチンで実施されていることが影響しているのかも知れない.
手術後VTEのリスクは特にクッシング病やクッシング症候群で高いことが知られているが(文献3,4,5),本研究の対象のうちの12%(78例)を占めるクッシング病患者でもVTEは認められなかった.
本シリーズでは術後の症候性腫瘍内血腫の発生は1%であったが,これは従来報告されている大きな下垂体手術シリーズにおける頻度(1~2%)と違いはなく(文献6,7),低分子ヘパリンの投与がその頻度を増加させていないことがわかる.
本研究によって,出血性合併症の頻度が低分子ヘパリン投与の有無によって異ならないことが示された事から,今後,VTE予防目的での低分子ヘパリン投与に関するRCTの実施が可能になると思われる.多施設前向き研究の結果に期待したい.

執筆者: 

有田和徳