中枢性尿崩症の原因診断におけるラブフィリン3A測定の実践的意義:単一施設連続15症例の検討

公開日:

2022年5月18日  

Studies on anti-rabphilin-3A antibodies in 15 consecutive patients presenting with central diabetes insipidus at a single referral center

Author:

Arihara Z  et al.

Affiliation:

Department of Endocrinology and Metabolism, National Hospital Organization, Sendai Medical Center, Sendai, Miyagi, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:35292721]

ジャーナル名:Sci Rep.
発行年月:2022 Mar
巻数:12(1)
開始ページ:4440

【背景】

ラブフィリン3Aは名古屋大学の研究チームが発見したリンパ球性漏斗下垂体後葉炎(LINH)の原因抗原であり,血清抗ラブフィリン3A抗体は下垂体後葉炎の特異的診断マーカーとして注目されている(文献1,2).従来は後方視的解析にとどまっていたが,本稿はリアルワールドにおける,同抗体測定の意義を検討したものである.対象症例は2013年から2020年に仙台医療センターを受診した中枢性尿崩症の連続15例.全例で高張食塩水試験中のAVPの無反応によって中枢性尿崩症が診断された.

【結論】

抗ラブフィリン3A抗体は全15例中9例で陽性であった.疾患別では,LINH5例(全例画像所見と臨床像で診断)中4例,リンパ球性汎下垂体炎4例(3例は病理学的に診断)中3例,サルコイドーシス2例中1例,鞍上部胚腫1例中1例で陽性であった.ラトケ嚢胞の2例,頭蓋咽頭腫の1例では陰性であった.リンパ球性汎下垂体炎2例と胚腫1例の摘出組織において免疫組織学的に抗ラブフィリン3A抗体の存在を確認した.

【評価】

尿崩症を呈する疾患は多彩であり,中には胚細胞性腫瘍のように診断の遅れにより致命的な障害をきたすものもある.そのため早期診断が必要であるが,現在のところ確定診断は生検術によらざるを得ない.しかし,リンパ球性漏斗下垂体後葉炎(LINH)のように病変の主座が鞍上部に存在するものも多く,経蝶形骨洞手術による安全で十分量の試料摘出は困難なことが多い.
ラブフィリン3Aは名古屋大学のIwama,Sugimuraらが発見したLINHの原因抗原である.2015年の報告によれば,これに対する自己抗体である血清抗ラブフィリン3A抗体は,29例のLINH患者のうち22例(感度76%)において検出されたが,リンパ球性下垂体前葉炎では11%のみに検出された(文献1).一方,前葉あるいは後葉いずれのリンパ球性下垂体でもない鞍上部腫瘤34例では,1例も検出されなかった(特異度100%).この結果は,血清抗ラブフィリン3A抗体がリンパ球性漏斗下垂体炎診断におけるかなり特異的なマーカーであることを示唆するものとなった.しかし,この研究は後方視的な研究であり,実臨床での意義は不明であった.
本稿は,第一線内分泌医療機関における尿崩症患者連続15症例を対象とした血清抗ラブフィリン3A抗体検出の意義に関する研究である.
この結果,臨床的・画像的にLINHと診断された5例中4例,リンパ球性汎下垂体炎4例中3例で,血清抗ラブフィリン3A抗体が陽性であった.臨床的にLINHと診断された症例における陽性率は2015年の報告とほぼ一致している.一方,リンパ球性汎下垂体炎でも3/4が陽性であった.少なくともこれらの3症例では,視床下部と下垂体の両者に対する自己免疫が中枢性尿崩症と下垂体前葉機能障害の発生に関与している可能性が示唆される.また,より単純に漏斗-後葉における炎症が前葉に波及した可能性も否定出来ない.
Iwamaらの既報では,下垂体炎以外の鞍上部腫瘤34例では血清抗ラブフィリン3A抗体は陰性であったが,本研究では鞍上部胚腫の1例とサルコイドーシス2例中1例で陽性であった.最近の報告では鞍上部胚腫の患者では抗下垂体抗体や抗視床下部抗体が上昇していることが報告されている(文献3,4).著者らは,胚腫に浸潤したリンパ球や形質細胞が後葉にも浸潤して炎症と抗ラブフィリン3A抗体の産生を引き起こす機序を想定している.サルコイドーシスの1例の場合も,病変が下垂体後葉に浸潤して抗ラブフィリン3A抗体産生を引き起こしているのかも知れない.
実臨床現場での中枢性尿崩症の原因診断における抗ラブフィリン3A抗体測定の有用性を検討した本稿は,著者らの2015年の初報に比べれば,LINH診断における特異度は50%と下がっている.これは,視床下部下垂体病変の正確な診断そのものの困難さを反映しているものなのかも知れない.
今後,簡便な抗ラブフィリン3A抗体測定キットが開発され,より多数例を対象とした臨床研究でその有用性が証明されることを期待したい.

執筆者: 

有田和徳