公開日:
2022年5月26日Author:
Frara S et al.Affiliation:
Institute of Endocrine and Metabolic Sciences, Università Vita-Salute San Raffaele and IRCCS Ospedale San Raffaele, Milan, Italyジャーナル名: | J Clin Endocrinol Metab. |
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発行年月: | 2022 Mar |
巻数: | Online ahead of print. |
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【背景】
先端巨大症患者では椎体骨折は高頻度に認められ,患者のQOLに強い負の影響を与えているが(文献1~6),その頻度やリスク因子はまだ充分に明らかではない.ミラノ市Vita-Salute San Raffaele大学内分泌代謝科などのチームは,彼らの施設で最近12年間に手術を受けた327例の先端巨大症患者のうち,関連する情報が得られた92例を対象として,これらの点を解析した.コントロールは最近1年間に入院した連続141例の急性下部気道感染症例とした.椎体圧迫骨折は胸部X線写真側面像での第5胸椎から第12胸椎の椎体後面の高さに対する前・中間椎体高の減少率に基づいて判定した.
【結論】
先端巨大症患者群で,入院時の椎体圧迫骨折は31例で認められ,その頻度はコントロール群より明らかに高かった(33.7 vs 2.9%,p=.001).椎体圧迫骨折を有する先端巨大症患者では多発椎体骨折は12例(38.7%),中等症/重症椎体骨折は5例(16.1%)で認められた.椎体圧迫骨折があった群では無かった群に比較して血中GH値が有意に高く(p=.03),IGF-1値とそのSD値は高い傾向であった(p=.07とp=.08).多変量解析ではGH値は椎体骨折のリスクと相関した(p=.003).ROC解析ではGH値12 ng/mL以上は感度74%,特異度53%で椎体骨折を予測した.
【評価】
Giustina Aが率いるミラノ市Vita-Salute San Raffaele大学内分泌代謝科と脳外科からの報告である.従来から,先端巨大症の約40%に椎体骨折が認められ(文献6),新たな椎体骨折のリスクは疾患の活動性期間,性腺機能の低下,過去の椎体骨折,糖尿病の合併と相関することが指摘されてきた.本研究では,椎体骨折は先端巨大症の診断の段階で33%の患者で認められ,血中GHレベルと相関することを明らかにした.本研究結果を受けて彼らは,椎体骨折のチェックは先端巨大症の診断時の一連の検査に含まれるべきであると結論している.
一方彼らは,椎体骨折の存在を推定するGH値のカットオフを12 ng/mLと提案しているが,ROC解析のAUCは64%であり,あまり精度は高くない.やはり,全例で初診時に胸・腰椎単純写真をチェックすべきであろう.
先端巨大症における椎体骨折の背景要因として,容易に推測されるのは,合併しているかも知れない下垂体機能低下症や性腺機能低下症であるが,本研究では血中TSH,fT4,LH,FSH,PRL,ACTH,コルチゾル,男性におけるテストステロン,閉経前女性におけるエストラジオールは,いずれも椎体骨折を有する先端巨大症患者と有さない患者群の間で差はなかった.唯一,fT3が椎体骨折群で低かったが(p=.05),両群とも平均値は正常範囲であった.
それでは,何が先端巨大症患者における椎体骨折をもたらすのか.先端巨大症患者では一般人口と比して骨塩量に差があるわけではなく(文献6),骨折を伴う先端巨大症患者でもDXAによる骨密度測定上の骨粗鬆が多いわけではないとのことである(文献3).ただし,先端巨大症患者では骨代謝回転(turnover),特に吸収が骨形成より亢進していることが知られており(文献6),このことと椎体骨折に関係があるのかも知れないが,そのメカニズムは充分には解明されていないようである.
では,どうすべきなのか.椎体骨折のリスクは疾患の活動性期間との相関が指摘されているので,早急なGHの正常化は当然であろう.本研究では椎体骨折のリスクは初診時のGH値と強く相関していたが,IGF-1やそのSD値との相関は薄かった.このことは,椎体骨折の予防という観点からは,第一世代SRLに次ぐセカンドラインの薬物療法としては、GH正常化をもたらさないペグビソマントよりは,パシレオチドが上がってくることになる.
また,先行するMazziottiらの研究では登録時活動性であった先端巨大症患者に限れば,種々の抗骨粗鬆症薬の投与は椎体骨折の低い発生頻度と相関したという(OR 0.11,p=.004)(文献7).既に椎体骨折を有し,GHのコントロールが困難な患者では抗骨粗鬆症薬の投与を考慮すべきであろうが,どのような系統の抗骨粗鬆症薬が特に有効かというエビデンスは現在のところないようである.
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Giustina A, et al. A consensus on the diagnosis and treatment of acromegaly comorbidities: an update. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism. 105(4): e937-e46, 2020.
- 2) Mazziotti G, et al. Acromegalic osteopathy. Pituitary. 20(1):63-9, 2017.
- 3) Mazziotti G, et al. Prevalence of vertebral fractures in men with acromegaly. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism. 93(12):4649-55, 2008.
- 4) Pelsma ICM, et al. Progression of acromegalic arthropathy in long-term controlled acromegaly patients: 9 years of longitudinal follow-up. J Clin Endocrinol Metab. 106(1):188-200, 2021.
- 5) Cellini M, et al. Vertebral Fractures Associated with Spinal Sagittal Imbalance and Quality of Life in Acromegaly: A Radiographic Study with EOS 2D/3D Technology. Neuroendocrinology. 111(8):775-85, 2021.
- 6) Mazziotti G, et al. Bone turnover, bone mineral density, and fracture risk in acromegaly: a meta-analysis. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism. 100(2):384-94, 2015.
- 7) Mazziotti G, et al. Treatment of Acromegalic Osteopathy in Real-life Clinical Practice: The BAAC (Bone Active Drugs in Acromegaly) Study. J Clin Endocrinol Metab. 105(9)dgaa363, 2020.
参考サマリー
- 1) 先端巨大症の椎体骨折の予防に骨粗鬆薬は効くのか:イタリアBAAC研究
- 2) 骨関節症は先端巨大症の寛解後も進行する
- 3) どんな体型の人が下垂体腺腫になるのか:米国における29万人,25年の前向き調査から
- 4) 旧基準で治癒と診断された先端巨大症患者は,新基準治癒群より綿密なモニタリングが必要か
- 5) 先端巨大症の術後治癒:新基準と旧基準群で代謝指標に違いはない
- 6) 先端巨大症治療後のGHとIGF-1の正常化の乖離:メタ解析の結果
- 7) 先端巨大症の外見を呈しIGF-1が高値なのに正常GH抑制を示すLow GH acromegalyあるいはMicromegalyの病態:ミラノの25例
- 8) 先端巨大症の早期発見につながる徴候はなにか:フランス ACRO-POLIS研究
- 9) 先端巨大症患者の生命予後,最近は健常者と有意差がない:メタアナリシス