クッシング病におけるUSP8活性型変異はDDAVPテストで予測出来る

公開日:

2022年6月7日  

最終更新日:

2022年6月8日

Responsiveness to DDAVP in Cushing's disease is associated with USP8 mutations through enhancing AVPR1B promoter activity

Author:

Shichi H  et al.

Affiliation:

Division of Diabetes and Endocrinology, Kobe University School of Medicine, Kobe, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:35451730]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2022 Jun
巻数:25(3)
開始ページ:496

【背景】

クッシング病患者ではDDAVP(デスモプレッシン)静注後に血中ACTH値が上昇する奇異反応が認められることが多く,補助診断の一つとなっている(文献1,2).一方,クッシング病の約半数に,脱ユビキチン化蛋白であるUSP8蛋白遺伝子の活性型変異が生じていることが知られている(文献3,4,5).神戸大学のShichiらはクッシング病におけるDDAVP反応性とUSP8活性型変異の関連を検討した.対象はDDAVPテストを行った47例のクッシング病患者で,DDAVP4μg静注後,血中ACTH値が前値の1.5倍以上となったものを反応陽性(32例),1.5倍に達しなかったものを陰性とした(15例).

【結論】

DDAVPテスト陽性群は,陰性群よりも女性,USP変異陽性が多かった(p<.01とp=.02).USP8変異陽性群は野生型よりもDDAVPテストに対するACTHとコルチゾルの反応性は高かった(3.0 vs 1.3倍と1.6 vs 1.1倍).DDAVPテストへの反応性は腫瘍におけるAVP受容体1B(AVPR1B)の発現量と相関した.ヒトHEK293T細胞にUSP8遺伝子を導入したモデルでは,AVPR1B遺伝子プロモーターの活動性はUSP8過剰発現で上昇し,USP8変異遺伝子の過剰発現でさらに増強した.
以上の結果は,USP8変異がAVPR1B遺伝子プロモーターの活動性亢進を介して発現を上昇させDDAVPへの反応性を高めることを示唆している.

【評価】

クッシング病のACTH産生腺腫細胞にはアルギニン・バゾプレッシン受容体(AVPR)1Bが過剰発現している.このためDDAVP(デスモプレッシン)投与によるACTHの奇異的上昇反応が認められ,この反応はクッシング病の補助診断の一つとなっており(文献1,2),再発予測のマーカーともなっている(文献6).
一方最近,クッシング病の3~5割に脱ユビキチン化蛋白であるUSP8蛋白遺伝子の活性型変異が生じていることが知られるようになった(文献3,4,5).この変異USP8は蛋白質分解酵素によって切断を受けやすく,この結果生じた変異USP8断片は脱ユビキチン化酵素活性ドメインのみからなり,高い酵素活性を示す.これによって,ユビキチン化されたEGF受容体の過度の脱ユビキチン化が起こる.結果として,本来はリゾゾームで分解されるはずのEGF受容体が分解されずにリサイクルされるため,EGFのシグナル伝達が持続的に活性化される.EGFRのシグナル活性化は,MAPK経路の活性化を促し,細胞増殖とPOMCのプロモーター領域の活性化を通したACTHの過剰産生につながると考えられている.
本研究では,47例のクッシング病患者を対象にDDAVPテストに対する反応性とUSP8活性型遺伝子変異発現の相関を検討したものである.DDAVPへの反応陽性は32例(68%)で認められた.一方,USP8遺伝子変異は23例で検索し,15例(65%)が陽性であった.DDAVP反応陽性例では陰性例に比較してUSP8遺伝子変異陽性が有意に多く,またUSP8遺伝子変異陽性群ではDDAVPに対するACTHとコルチゾルの反応性は高かった.ROC解析ではDDAVPに対するコルチゾルの反応が1.41倍以上であった場合に,感度78.6%,特異度100%でUSP8遺伝子変異を診断できたという(AUC =0.92).さらに,ヒト腎細胞株(HEK293T)の培養細胞系を用いた実験で,USP8変異遺伝子の導入がAVPR1B遺伝子プロモーターの活動性を亢進させることを示した.これらの結果は,USP8活性型遺伝子変異→AVPR1B遺伝子プロモーターの活動性亢進→AVPR1Bの過剰発現→DDAVPに対する反応性の亢進というメカニズムを推測させる.
先行する日本からの論文によれば,USP8遺伝子変異を伴うACTH産生腺腫は小型で手術による根治の可能性が高く,POMC,SSTR5,MGMTの発現量が高いことが報告されている(文献5).すなわち,ACTH産生腺腫では,USP8遺伝子変異の有無によって,治療戦略が異なってくる可能性がある.しかしUSP8遺伝子変異の検出には,摘出組織のRT-PCRが必要であるため,第一線の臨床現場での応用には制約があった.今回の研究で,DDAVPテストへのACTHやコルチゾルの反応によって,手術前に,USP8遺伝子変異の有無の推定が可能になったことの臨床的意義は大きい.
今後,本研究結果が外部コホートで検証されることを期待したい.また,USP8遺伝子変異がAVPR1B遺伝子プロモーターの活動性を亢進させる機序についても解明を期待したい.

<コメント>
本研究は,クッシング病において有用な診断検査であるDDAVP試験に反応する腫瘍としない腫瘍の違いを明らかにすることにより,この試験が持つ科学的な意味をさらに明確にする事で,本試験の臨床的意義をさらに高めることを目的とした.DDAVP試験に反応するクッシング病を見ると,比較的若年な女性に多く,大きさの割にACTH分泌が高いという特徴があり,これはUSP8変異を伴うクッシング病と特徴が似ていたため,遺伝子解析と共に検討したところ,両者に有意の関連性を認めた.次に,USP8変異によってなぜDDAVP試験反応性が上昇するかを明らかにするため,AVPR発現との関連性とその病態に迫ったところ,USP8変異発現やその変異蛋白の発現によりAVPR1Bプロモーター活性が上昇していた.このことによって,USP8変異タンパクによりEGFRだけではなく,AVPR1B発現が上昇している事を初めて明らかにしたこととなる.USP8は,元来脱ユビキチン化酵素であるが,クッシング病では転写のレベルでAVPR1B発現を上昇させていることは興味深い.我々は次のステップとして,そのメカニズムを解明したいと考えている.
本論文作成に当たり御世話になった先生方に改めてお礼申し上げます.(神戸大学医学部附属病院 糖尿病・内分泌内科 福岡 秀規)

執筆者: 

有田和徳