非機能性下垂体腺腫と下垂体炎の鑑別のための4つの因子による簡単なスコアリング・システム:AUCは0.96

公開日:

2022年6月21日  

最終更新日:

2022年6月27日

Preoperative differentiation of hypophysitis and pituitary adenomas using a novel clinicoradiologic scoring system

Author:

Wright K  et al.

Affiliation:

NYU Grossman School of Medicine, NYU Langone Health, New York, NY, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:35622211]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2022 May
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

下垂体炎と非機能性下垂体腺腫の術前鑑別は時に困難なことがある.ニューヨーク大学の糖尿病・内分泌内科などのチームは,自験例と文献例に基づいて,両者の鑑別のためのスコアリング・システムを開発した.自験例の解析対象は2012年以降9年間で,手術で組織像が確認出来た下垂体炎7例と非機能性下垂体腺腫185例.過去の文献から採用した解析対象は下垂体炎の56症例(15文献).この56例のうち12項目の必須データがそろった18例と,年齢・性を一致させた自験の非機能性下垂体腺腫56例,合計74例を開発コホートとした.尿崩症,下垂体柄の肥厚,妊娠との関連,海綿静脈洞浸潤の欠如,視機能障害の欠如は下垂体炎と強く相関した.

【結論】

この結果を基に,尿崩症+2点,下垂体柄の肥厚+1点,海綿静脈洞浸潤の欠如+2点,視機能障害の欠如+1点,合計で最高6点の下垂体炎予測スコアを作成した.開発コホートにおける,このスコア・システムのAUCは0.96で,スコア3点以上は感度100%,特異度75%で下垂体炎を診断出来た.
自験の下垂体炎7例と年齢・性を一致させた自験の非機能性下垂体腺腫129例,合計136例を検証コホートとした.検証コホートでも本スコアリング・システムを用いた下垂体炎の診断の感度は100%で,特異度75.3%,偽陽性率24.7%であった.

【評価】

本稿で下垂体炎の特徴として取り上げられた下垂体柄の肥厚は,これまでも下垂体炎の有力なMRI所見として報告されている(文献1,2).本研究対象でも,下垂体柄の肥厚は下垂体炎では61%であったのに対して,非機能性下垂体腺腫では7%と稀である.逆に海綿静脈洞浸潤は非機能性下垂体腺腫では57%であるのに対して,下垂体炎では11%と稀である.尿崩症も下垂体炎では過半数に認められるが(文献3,4),非機能性下垂体腺腫では原則として下垂体卒中などの特殊な病態を除けば生じない.本研究対象でも,非機能性腺腫では尿崩症の出現は約2%に過ぎない.視機能障害の出現は非機能性下垂体腺腫では約6割であるのに下垂体炎では約2割と稀である.
以上の事実に基づいて,著者らは下垂体炎と非機能性下垂体腺腫の間の出現頻度に大きな差がある4つの因子に2点か1点を付与して加算するというスコア・システムを開発した.一方,妊娠との関連は,非機能性下垂体腺腫では0%で,下垂体炎のみで認められ,有意の相関因子であったが,下垂体炎でも17%とその頻度は高くないのでスコアリングの項目からは除外されている.
このスコア・システムによる下垂体炎診断の精度をROC解析で評価したところ,AUCは0.96と高く,感度は100%で,特異度は75%であった.
偽陽性率(1-特異度)が意外と高いなあというのが本サマリー執筆者の率直な感想である.すなわち,このスコア・システム3点以上であれば,下垂体炎を見逃すことはないが,非機能性下垂体腺腫のうち約1/4が下垂体炎と誤診されてしまうことになる.
ただし,本文の図を見るとスコア・システム4点以上を示す非機能性下垂体腺腫はなく,4点以上は必ず下垂体炎である.こうした症例では不必要な手術は避けることが出来ることになる.逆に,スコア・システム2点以下では下垂体炎の可能性はないので,必要なら手術をためらってはならないということになる.本スコア・システムの真価はスコア2点以下と4点以上にあるように思われる.
下垂体炎はその病変の主座によって,① リンパ球性下垂体前葉炎,② リンパ球性漏斗下垂体後葉炎,③ リンパ球性汎下垂体炎に分けられる.また,病理学的には① リンパ球性下垂体炎,② 肉芽腫性下垂体炎,③ 黄色腫性下垂体炎,④ 壊死性下垂体炎に分けられる.さらに二次性下垂体炎として① IgG4関連下垂体炎,② 免疫チェックポイント阻害薬による下垂体炎が登場してきている.それぞれの疾患には特異的な画像所見と臨床像があり,必ずしも本稿のように単純ではないが,非機能性下垂体腺腫との鑑別という意味では,意義のあるスコア・システムと思われる.他の大規模下垂体センターでの症例で検証されるべき結果である.
一方,造影MRIにおいて,非機能性下垂体腺腫では腺腫組織と下垂体が明瞭に分離出来るが,下垂体炎ではトルコ鞍内が一様に造影されるという大きな違いがある(文献5).また下垂体炎では蝶形骨洞粘膜の肥厚を伴う事が多い(文献5).本研究では取り上げられていないこれらの因子も入れると,より特異度が上がりそうな気がする.今後の検討課題である.

執筆者: 

有田和徳