閉経前女性の機能性ゴナドトロピン産生下垂体腺腫の臨床像と分子学的特徴:KISS1mRNAが高い

公開日:

2022年8月10日  

Functioning gonadotroph adenomas in premenopausal women: clinical and molecular characterization and review of the literature

Author:

Wang L  et al.

Affiliation:

Department of Endocrinology, Key Laboratory of Endocrinology of National Health Commission, Peking Union Medical College Hospital, Beijing, China

⇒ PubMedで読む[PMID:35138520]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2022 Jun
巻数:25(3)
開始ページ:454

【背景】

ゴナドトロピン産生腺腫は転写因子SF-1を発現し,組織学的にゴナドトロピンの産生能を示すが,大部分はホルモン過剰症状を呈さず,いわゆる非機能性下垂体腺腫に含まれる(文献1).しかし極くまれに,ゴナドトロピン過剰による臨床症状を呈することがあり,これを機能性ゴナドトロピン産生腺腫(FGA)という(文献2,3).北京協和医院のWangらは,自験の12例の閉経前女性(平均年齢32歳)のFGAを報告している.11例はFSH優位型(FSH/LH比≧1)で,エストラジオールが高値(中央値1,353 pg/mL)にもかかわらず,FSHが抑制されていなかった(平均12.45 IU/L).1例はLH優位型であった.

【結論】

免疫組織学的に全例がSF-1陽性であった.FSH優位型FGAの11例全例が月経障害を呈し,9例が自然発症卵巣過剰刺激症候群(sOHSS)を呈した.手術後は,血中ゴナドトロピンとエストラジオールは急速に低下した.
FSH優位型FGAの7例の腺腫組織では,下垂体ゴナドトロピン分泌をコントロールするキスペプチン(KISS1)のmRNA発現が,非機能性ゴナドトロピン産生腺腫(NFGA)5例に比較して有意に高く(p=.018),術前血中エストラジオール濃度と正相関した(p=.004).
LH優位型の1例も月経不順と不妊を呈した.FGAの文献例65例でも,92.3%がFSH優位型であった.

【評価】

ゴナドトロピン産生腺腫は転写因子SF-1を発現する下垂体腺腫のことである(文献1).組織学的にはFSH,LH,αサブユニットの産生能を示すが,実際にゴナドトロピンの過剰分泌を伴うものは極めて稀であり,多くはいわゆる非機能性下垂体腺腫に含まれる.
非機能性下垂体腺腫の中で最も多いのが非機能性ゴナドトロピン産生腺腫(silent gonadotroph adenoma)で80%を占め,silent corticotroph cell adenoma(SCA)15%がこれに続く.
一方,本稿で取り上げられている機能性ゴナドトロピン産生腺腫(FGA)はゴナドトロピンの過剰分泌による症状を示すものであるが,極めて稀であり,詳細な疫学データはない.本サマリー執筆者の自験の下垂体腺腫1,400例の経験では1例のみであった.症状は,閉経期前の成人女性では月経異常,不妊,乳汁分泌,自然発症卵巣過剰刺激症候群(sOHSS)が,成人男性では女性化乳房,精巣腫大,性腺機能異常が,小児では性ホルモン分泌亢進症候,思春期早発症が認められる.
OHSSは通常,不妊治療に用いる排卵誘発薬によって引き起こされ(医原性),hCGなどの大量のゴナドトロピンの投与によって,卵巣が過剰に刺激を受けたことによって発生する.卵巣腫大(卵巣嚢腫),腹水貯留,腹痛などの症状が出現する.病態が進行すると,尿量の減少を来して腎不全を招き,呼吸・循環不全に陥る.非医原性のOHSSとしては妊娠中に自然発症するOHSSが報告されている.これにはFSH受容体遺伝子の機能亢進型変異が考えられている.ゴナドトロピン産生腺腫では血中FSH高値によって卵巣が過剰に刺激されることで自然発症卵巣過剰刺激症候群(sOHSS)が生じる.
本稿によれば,著者らの施設で経験した機能性ゴナドトロピン産生腺腫(FGA)を有する閉経前女性12例のうち11例がFSH優位型で,そのうち9例がsOHSSを呈した.11例は軽度の高プロラクチン血症を伴っていた(平均73.9 ng/mL).
また著者らは,FGAを有する閉経前女性の文献レビューも行い,65例(20~40歳,平均年齢32歳)を塊集している.これによれば,92.3%がFSH優位型で,86.7%が月経障害を呈した.エコーを含む腹部画像診断が実施された56例中55例(98.2%)にsOHSSが認められている.LH優位型の5例ではsOHSSは認められていない.
本研究で特筆すべきは,FGA組織中では,キスペプチン(KISS1)のmRNAならびにその受容体KISS1RのmRNAが,非機能性ゴナドトロピン産生腺腫やSCAに比較して高発現していることを示した事である.
KISS1は強力なゴナドトロピン分泌促進作用をもち,思春期の開始に重要な役割を果たしている.また,視床下部キスペプチン神経細胞は性ステロイドホルモンのポジティブ,ネガティブのフィードバックをコントロールしており,GnRH分泌を制御している(文献4,5).本稿の著者らはFGAにおいて過剰発現しているKISS1と細胞膜上のKISS1受容体が,autocrineモードで,自らのゴナドトロピン分泌を促進している可能性を示唆している.
ゴナドトロピン産生下垂体腺腫ではゴナドトロフの転写因子SF-1を共通に発現しながら,血中ゴナドトロピンが上昇するFGAとそうでない非機能性ゴナドトロピン産生腺腫に分かれるが,このKISS1/KISS1R発現がその分化のメカニズムにおいて重要な鍵を握っているかも知れない.今後,追試されるべき重要な発見である.

執筆者: 

有田和徳