薬物療法に抵抗性のプロラクチン産生腺腫に対する治療選択におけるメチオニン-PET/MRIの有用性

公開日:

2022年8月26日  

最終更新日:

2022年8月27日

Implementation of functional imaging using 11 C-methionine PET-CT co-registered with MRI for advanced surgical planning and decision making in prolactinoma surgery

Author:

Bakker LEH  et al.

Affiliation:

Section of Nuclear Medicine, Department of Radiology, Leiden University Medical Center, Leiden, The Netherlands

⇒ PubMedで読む[PMID:35616762]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2022 Aug
巻数:25(4)
開始ページ:587

【背景】

MRIで描出が困難なACTH産生腺腫やGH産生腺腫に対するメチオニン-PETとMRI-コレジストレーション画像(Met-PET/MRI)の有用性が報告されている(文献1,2).本稿は,薬物療法での治療が困難なプロラクチン産生下垂体腺腫に対するMet-PET/MRIの意義を検討したものである.対象はライデン大学下垂体センターに紹介された抵抗性または不耐容のためドパミン作動薬での治療が困難な18症例で,今後の治療方針の決定のためにMet-PET/MRIが施行された.9例が以前に経蝶形骨洞手術を受けていた.
のう胞性腺腫の1例のみで,Met-PET/MRIが偽陰性であった.

【結論】

17例(94%)で,Met-PET/MRIで腫瘍が陽性であった.Met-PET/MRIと通常MRIの比較では,腫瘍は5例で完全に一致,9例では部分的に一致,4例では不一致であった.5例では,Met-PET/MRIで示された部分を後方視的に見直すと,通常MRIでも病変が認められた.これらの所見に基づいて,13例が再手術を受けた.このうち9例で生化学的正常化,2例でほぼ正常化,1例で症状改善が得られた.1例のみが長期の合併症(部分的副腎不全)を呈した.3例ではドパミン作動薬が続けられ,2例は経過観察となった.
Met-PET/MRIは手術前あるいは手術中の意思決定のための有用なガイドとなり得る.

【評価】

手術や長期薬物療法後の下垂体腺腫症例では,瘢痕組織と活動性腫瘍のMRIによる判別は困難である.メチオニンは下垂体腺腫細胞中に活発に取り込まれるため,メチオニン-PETは高い感度で活動性腺腫を描出する.さらにMRIとコレジストレーションさせたMet-PET/MRIは高い空間分解能で,手術あるいは長期薬物療法後の生存腺腫組織を描出する(文献1,2,3,4).
本稿は,手術を含む治療を受けたプロラクチン産生腺腫18例を対象に,Met-PET/MRIの残存(あるいは薬物抵抗性)腺腫の描出における精度を評価したものである.その結果,1例ののう胞性腺腫を除いて全例で腺腫がホットスポットとして描出された.6例では,MRI上は明瞭な腺腫像を指摘し得なかったが,Met-PET/MRIでは腺腫の存在が確認出来た.9例ではMet-PET/MRIで,海綿静脈洞との関係など,その後の治療選択に必要な情報を得ることが出来た.また,これらの画像所見を参考にした再手術は13例中9例(69.2%)で生化学的寛解をもたらしている.
メチオニン-PETは,本邦では2022年8月の段階で,下垂体腺腫を含む脳腫瘍には保険未適用であるが,既にいくつかの施設で,研究用に実施されている.本邦でも,関連学会などで前向き登録研究を行い,その有用性を確認して,早期の保険適用を目指していただきたい.

<コメント>
手術や長期薬物療法後のプロラクチノーマは,MRIにおいて,明らかな活動性病変を見いだすのが困難な場合があり,本報告が示す,メチオニン-PETの有用性は新たな知見と言える.しかし,治療開始前のMRIを見直せば,ある程度,腫瘍の局在を推測することは可能であろう.治療後の機能性腺腫は下垂体との境界が不明瞭であることから,PET検査をナビゲーションに取り込むことで,摘出のメルクマールとして活用できることは期待できる.一方,プロラクチノーマに対して,プロラクチン値の完全正常化を目指した下垂体の部分切除や海綿静脈洞内の操作まで行うかどうかは議論が分かれるテーマである.保険適用外であることも考慮すると,プロラクチノーマに対してメチオニン-PETまで行う機会は,今後も少なそうである.(鹿児島大学下垂体疾患センター 藤尾信吾)

執筆者: 

有田和徳