術前OCTを用いた下垂体部腫瘍手術後の視機能の改善予測にはRNFLよりもGCLの方が有用

公開日:

2022年11月21日  

最終更新日:

2022年11月22日

A comparison of macular ganglion cell and retinal nerve fibre layer optical coherence tomographic parameters as predictors of visual outcomes of surgery for pituitary tumours

Author:

Meyer J  et al.

Affiliation:

Ophthalmology Department, The Royal Melbourne Hospital, VIC, Australia

⇒ PubMedで読む[PMID:35552990]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2022 Aug
巻数:25(4)
開始ページ:563

【背景】

近年,光干渉断層計(OCT)が下垂体部腫瘍に対する手術後の視機能回復の予測に用いられている(文献1,2,3,4).その指標として網膜内の乳頭周囲網膜神経線維層(pRNFL)と黄斑部神経節細胞層(mGCL)の菲薄化が用いられてきたが,両者を直接に比較した研究はなかった.王立メルボルン大学眼科・脳外科などのチームは,下垂体腺腫83例を含む108例(216眼)を対象に,下垂体部腫瘍に対する摘出手術(経蝶形骨洞手術:93.5%)後2年目の視機能予測におけるpRNFLとmGCLの精度を比較した.

【結論】

mGCLは上内側セクターの厚みが,pRNFLは下尾側セクターの厚みが,視野の長期的な改善と維持に相関したが,ROC解析におけるAUCはmGCLの方が高かった(0.90 vs 0.58).
Youden法によるmGCLの最適カットオフ値は同一年齢健常者の22パーセンタイル順位(51~68歳で55.17 μm)と設定された.このカットオフ値での術後視野改善の陽性適中率は86%,陰性適中率は83%であった.
このカットオフ値よりmGCLが厚かった70眼では,薄かった67眼に比較して,目標視力(少数視力0.5)と目標視野(VFMD3.5 dB)への到達頻度が有意に高かった(p=.022と<.001).

【評価】

2020年に発表された延世大学Chungらの下垂体腺腫患者を対象とした研究では,OCTにおける網膜神経線維層(RNFL)の厚みを,性・年齢を一致させた健常者の5パーセンタイル順位以下を薄い(83例),それ以上を正常(90例)と判定している(文献3).その結果,視野障害を有する下垂体腺腫患者術後の視野インデックス(VFI値)とその平均偏差(MD値)の改善率は2群間で差はなかったという.
一方,本研究では,術前のOCTにおいて,乳頭周囲網膜神経線維層(pRNFL)の厚み(健常者の下から10パーセンタイル順位値以上)と比較して,黄斑部神経節細胞層(mGCL)の厚み(健常者の下から22パーセンタイル順位値以上)が術後の視野の改善をより正確に予測することを示した(AUC:0.90 vs 0.58).mGCL厚がこの閾値(22パーセンタイル順位値)を超えた眼では,そうでない眼より視力,視野とも目標値の達成度が高かった(96.2 vs 86.0% と88.6 vs 51.6%).
本研究は,視交叉圧迫を伴う下垂体部腫瘍患者における術後の視機能改善を予測するOCT上でのパラメーターとして,pRNFLの菲薄化よりもmGCLの菲薄化の方が有用であることを明瞭に示しており,臨床的価値が高い論文である.今後,術前MRIにおける視交叉圧迫のグレードや視機能低下期間の長さを評価項目に加えることによって(文献5,6,7),その予測精度が改善するのか,興味深い.
なお下垂体部腫瘍における網膜神経線維層と神経節細胞層の菲薄化は共に,視交叉部圧迫による軸索と神経節細胞の逆行性変性を示している訳であるが,この2者間で術後視機能の回復の予測精度に差があることの理由については詳細ではない.ただし,網膜神経線維層の方が “floor effects” を受けやすいことが言及されており(文献8),網膜神経線維層の菲薄化が早期に限界近くまで進むために,カットオフ値の設定が困難になっている可能性が推測される.

執筆者: 

有田和徳