ラトケのう胞の自然経過では増大よりも縮小が多い:過去最大229例の自然史と増大・縮小のリスク因子

公開日:

2022年11月21日  

最終更新日:

2022年11月22日

Natural course of Rathke's cleft cysts and risk factors for progression

Author:

Kinoshita Y  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima

⇒ PubMedで読む[PMID:36057119]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2022 Sep
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

ラトケ嚢胞は剖検下垂体の3.7%で認められるが(文献1),その大部分は無症候性である.近年のMRIの普及によって,無症候性のラトケのう胞の頻度は増えているが,その自然史は充分に明らかではない.広島大学のKinoshitaらは2000年以降にMRIで診断した355例のうち,経過観察が選択された229例(年齢中央値43歳,女性155例,縦径中央値10 mm)の自然史を明らかにし,増大のリスク因子を求めた.のう胞縦径が1 mm以上の変化を増大あるいは縮小と定義した.中央値36.6ヵ月の追跡期間中に23例(10.0%)が増大,73例(31.9%)が自然縮小,133例(58.1%)は不変であった.

【結論】

増大したラトケのう胞は不変例に比較して高齢であった.初発症状が急性頭痛の患者では自然縮小しやすかった.経過観察中に新規症状の出現があったのは6例(2.6%)のみで,2例では視機能障害が,1例では尿崩症が,1例では高プロラクチン血症と頭痛が,1例では副腎皮質機能低下が出現した.これら5例に対しては手術が行われた.残る1例では尿崩症が新たに出現したが,のう胞縮小に伴っていたので,手術は行われなかった.カプラン・マイヤー解析では,増大出現率,新規症状出現率は追跡5年目で12.0%と4.1%,10年目で13.7%と5.7%であった.
追跡中のラトケ嚢胞が増大したり,症候性になることは稀であると結論出来る.

【評価】

本稿の著者らが2001年以降に経験した355例のラトケのう胞のうち89例が早期に手術され,37例は経過観察が行われず,残り229例が経過観察された.本稿はこの過去最大数のラトケのう胞の追跡の結果である.それによれば,ラトケのう胞は,中央値3年くらい(1.3~219.3ヵ月)経過観察しても増大は10%,新規症状出現は2.6%と稀で,むしろ縮小が31.9%と増大の3倍多いことが明らかになった.
さらに,縮小群では急性頭痛が初発症状であることが有意に多い(増大群8.7%,縮小群28.8%,不変群9.8%;p=.0007)ことが明らかになった.著者らによれば,ラトケのう胞における急性頭痛はのう胞破裂に伴う内容液の流出やのう胞内微小出血に起因すると考えられ,そうした症例では自然経過でのう胞の縮小が起こり易いのであろうと推測している.ラトケのう胞では他の下垂体部腫瘍に比較して頭痛を伴うことが多く,また頭痛はのう胞ドレナージなどの手術によって高率に改善する(文献2,3).しかし,最近の報告では,手術症例と保存的治療例では頭痛の改善率に差がないことも報告されている(文献4,5).これは,頭痛の原因となるのう胞破裂やのう胞内微小出血が一過性イベントであることを反映しているものと思われる.ラトケのう胞術後の新規下垂体機能低下症の発生頻度が約7%で(文献6),永久的な尿崩症の発生頻度が5.5–18.9%と高い事を考慮し(文献7),著者らは急性頭痛を呈したラトケのう胞でも,視機能や内分泌機能が保たれていれば,数ヵ月間は手術せずに慎重に経過観察することを推奨している.
その他,大きなのう胞径,のう胞内小結節の存在がのう胞縮小と関連する有意の因子であったという.
さらに著者らはラトケのう胞の自然史に関する過去の9報のレビューを行っている.これによれば増大の頻度は3.3-32.9%と報告によってばらつきが大きい.これは,小さなサンプルサイズ(17-102例)と短い追跡期間が影響しているのであろう.一方,自然縮小の頻度も3.2-48%とばらつきが大きい.日本での多施設共同研究(94例)では増大5.3%,自然縮小15.9%であった(文献8).また,最近出版されたPeterssonらの102例の60ヵ月の追跡では増大率15%,自然縮小率48%である(文献9).
こうしたデータを見ると,視機能低下などの神経症状のないラトケのう胞は放置していても増大して症候性となることはまれで,むしろ自然縮小が30%くらいの症例で起こることが推定される.患者・家族にはこうした事実を伝えた上で,治療方針を決定すべきであろう.
本研究で特筆すべきは,増大群は縮小群や不変群と比較して年齢が高かったことである(中央値;増大群59歳,縮小群39歳,不変群44歳;p=.0412).ROC解析では,年齢はAUC0.6529で増大を予測し,カットオフ値57歳で感度61%,特異度70%であった.この理由について,著者らは明確にしてはいないが,同様の報告はTruongらによってもなされている(文献4).もしかすると,高齢者のラトケのう胞の組織像は若年者のそれとは少し異なるのかも知れない.今後,明らかにすべき課題である.
では,無症候性のラトケのう胞の患者は何年くらい追跡すればよいのであろうか.本シリーズのカプラン・マイヤー解析では増大出現率は5年目で12.0%,10年目で13.7%であり,また,5年目以降の新規症状出現率が1.7%と低かったことから,著者らはラトケのう胞の適切な追跡期間として最低5年を提唱している.

<コメント>
本研究結果は,無症候性ラトケのう胞の自然歴を解明するために229例という多数例を忍耐強く経過観察した成果であり,広島大学脳神経外科グループの努力は敬意に値する.中央値10 mmの小さなのう胞が主体の本研究コホートでは,中央値約3年の追跡期間で増大10%,自然縮小31.9%,不変58.1%ということで,我々の日常臨床における経過観察結果と矛盾しない.また,理由は不明だが,自身の経験でも確かに若年者の方が急な頭痛を契機に縮小する例が多い印象がある.
本稿で気になる点としては,MRI撮影や受診の間隔が不明なこと,便宜的に正中矢状断の高さのみでサイズを定義していること,ラトケのう胞の診断を誰がどのようにしたのか,早期に手術した89例はどのような適応で手術されたのか,内分泌機能低下のみで発症したラトケのう胞に対する治療方針をどうするかなどが不明な事があげられる.しかし,いずれにしても,無症候性ラトケのう胞は,先ずは経過観察すべきであるという本論文の結論が揺らぐことはないであろう.(獨協医科大学 阿久津博義)

執筆者: 

有田和徳