小児・思春期の巨大プロラクチノーマの臨床像:自験18例と文献例77例のレビュー

公開日:

2023年1月19日  

最終更新日:

2023年1月20日

Giant prolactinoma in children and adolescents: a single-center experience and systematic review

Author:

Kumar S  et al.

Affiliation:

Department of Endocrinology and Metabolism, Seth G S Medical College & KEM Hospital, Parel, Mumbai Maharashtra, India

⇒ PubMedで読む[PMID:35851929]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2022 Dec
巻数:25(6)
開始ページ:819

【背景】

稀ではあるが巨大なプロラクチノーマ(GP)に遭遇し,治療に難渋することがある.ムンバイ市KEM病院の内分泌代謝科などのチームは,最大径4 cm以上のGPを有する20歳以下の自験18症例と文献77例を含めた95例をレビューした.自験18例は20歳以下のプロラクチノーマ全体の20%を占めた.全95例では,平均年齢15.4歳で,83%が男児であった.受診の動機は視機能障害89%,内分泌異常13%であった.初診時症状は視機能障害(86%),頭痛(65%),肥満(69%),低身長(31%),男児の思春期遅発/停止(82%),女性化乳房(22%),女児の無月経(100%,原発性と続発性は半々)であった.

【結論】

男児性腺機能低下症患者では,睾丸体積が小さく,テストステロン値が低かった.
平均腫瘍径は5.5 cm,血中プロラクチン中央値は8,649(3,246~17,532) ng/ml,MEN1変異陽性は22%,AIP変異陽性は19%であった.
初期治療はドパミン作動薬65%(49例),手術35%(27例)であった.初期ドパミン作動薬投与群の全例で腫瘍の50%以上の縮小が得られ,約半数で血中プロラクチンの正常化が得られた.30%では二次治療として手術が選択された.初期治療として手術が選択された27例のうち21例(78%)で二次治療としてドパミン作動薬が選択され31%で血中プロラクチン値の正常化が得られた.

【評価】

著者らの1施設で小児の巨大プロラクチノーマが18例という数にまず驚かされるが,背景にどれだけの数の下垂体腺腫患者がいたのかは明らかにされていないので,この数が著者らの施設で治療している下垂体腺腫患者数の膨大さを反映しているのか,著者らの医療圏における保健医療体制の問題で,腺腫が巨大になるまで発見されていないのかは明らかではない.
いずれにしても,本レビューが小児の巨大プロラクチノーマに関する過去最大規模のレビューであることは間違いがない.
本稿で示された臨床像や治療経過の多くは腫瘍のサイズとプロラクチン高値から想定できる範囲内である.
しかし,男児が83%(男女比4.8:1)と圧倒的に多いのはなぜか.成人の巨大プロラクチノーマでもやはり男性が多いことが報告されている(男女比6.4:1)(文献1).さらに本レビューでは,男児例は女児例に比較して平均発症年齢が若く(15歳 vs 17歳,p=.03),腫瘍径がやや大きかった(5.6 cm vs 4.9 cm,p=.11).男性例の方が腫瘍径が大きく,プロラクチン値が高いという事実はマクロプロラクチノーマでも報告されている(文献2).このことは,男児では月経障害という明瞭な症状が少ないために発見が遅れるという理由よりは,男児のプロラクチノーマが女児のそれより高い増殖能を有していることを反映しているのかも知れない.小児期に発生したプロラクチノーマに対する新生児期の性ステロイド・インプリンティングとこれによる性ステロイド受容体と血管新生能への影響が類推されている(文献3).残念ながらKi-67インデックスやVEGF発現に関する男女間の比較は行われていない.
初期治療としてドパミン作動薬が選択された症例では,全例で体積率50%以上の腫瘍縮小が得られ,約半数でプロラクチン値の正常化が得られたという事実は,プロラクチノーマではどんなに大きくてもドパミン作動薬が治療の第一選択であることを示している.
一方,生殖細胞遺伝子解析が行われた32例中,MEN1変異陽性は22%,AIP変異陽性は19%であった.興味深いのはAIP変異がなかった14例では全例でドパミン作動薬による治療開始後に追加治療を必要としなかったが,AIP変異が存在した6例中2例(33.3%)では追加治療が必要になったことである(p=.02).同様の事実はプロラクチノーマ一般でも知られている(文献4).
MEN1変異の有無については有意差はなかったが,数値上はMEN1変異陽性例でドパミン作動薬による治療開始後の追加治療の必要性が高かった(50% vs 14.3%,p=.09).MEN1遺伝子変異の存在が,ドパミン作動薬に対する若年プロラクチノーマの抵抗性と関連しているかも知れないという報告もある(文献1).
AIP遺伝子変異とMEN1遺伝子変異の有無は若年発生の巨大プロラクチノーマの治療にあたって,調べておくべきかも知れない.

執筆者: 

有田和徳