脳室シャント後の下垂体の腫大

公開日:

2023年3月6日  

最終更新日:

2023年3月7日

Pituitary enlargement in patients with cerebrospinal fluid drainage due to ventricular shunt insertion: know the condition and do not mistake for adenoma

Author:

Grzywotz A  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery and Spine Surgery, University Hospital Essen, Hufelandstr, Essen, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:36652088]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2023 Feb
巻数:26(1)
開始ページ:164

【背景】

特発性低髄液圧症候群では下垂体の腫大が起こることは良く知られている(文献1,2,3).水頭症に対するシャント術後でも,同様の病態が生じるはずであるが,その実態は意外に知られていない.エッセン大学脳外科は自験例を基にこの問題を検討した.対象は非腫瘍性水頭症に対するシャント術後の15例と小児脳腫瘍に対するシャント術後の7例の合計22例(女性15例,平均年齢22歳).22例全体の下垂体の上下径平均値は8.5 mm(range:6.1~13.2),体積は444.8 mm3(231.8~679.5)であり,年齢が一致した健常者(文献4)より有意に大きかった(上下径t値=5.91;p<.001,体積t値=3.03;p=.006).

【結論】

非腫瘍性水頭症15例と腫瘍性水頭症7例では下垂体サイズ(上下径,体積)に差はなかった.
5症例ではシャント手術前の下垂体の画像評価が可能であった.シャント手術前はいずれも下垂体上面は凹であったが,シャント手術後は平面か凸になっていた.MRI上での下垂体サイズは,シャント前に対してシャント後は有意に増大していた(上下径平均値2.5 vs 6.6 mm,体積120.5 vs 368.9 mm3)(Z=-2.02,p=.043).1例のシャント術後のCTでは下垂体は高吸収値で充血を示唆し,海綿静脈洞はうっ血していた.

【評価】

予想されていた結果であるが、本研究は,特発性低髄液圧症候群と同様に,医原性の低髄液圧をもたらす可能性がある髄液シャントでも下垂体が腫大することを示した.
一方,起立性頭痛などの髄液オーバードレナージが疑われた4症例とそれ以外の症例を比較したが,両群間に有意差はなかったとのことである(all Z ≦-1.56,p≧.119).今後,症例数を増やして髄液圧の測定値も検討すれば,相関が出るのかもしれない.
また本研究では髄液シャント後には,トルコ鞍容積が縮小することも示唆されている(文献5).トルコ鞍容積の縮小も,シャント後の下垂体の上下径を増大させる一要因になっているのかも知れない.
いずれにせよ,本稿が問題提起しているのは,シャント後の患者では下垂体腫大が頻繁に認められるので,安易に下垂体部腫瘍の疑いなど判断して,患者・家族に余計な心配をさせてはいけないということになる.
しかし,Monro–Kellieの原則が頭蓋内の全ての構成要素に影響するのはわかるとしても,下垂体の体積だけが何故3倍にもなるのか.逆に,特発性頭蓋内圧亢進症では,下垂体上面の形状は凹になり,下垂体の高さは低くなることが知られている(文献6,7,8).すなわち,下垂体は頭蓋内圧の変化を受けてスポンジのように容易に伸縮する臓器であるということか.
手術の時の印象では,腺腫組織とは異なり,下垂体はしっかりとした実質臓器であり,伸縮自在な組織には見えない.頭蓋内圧変動による下垂体体積の大きな変化は内分泌臓器に特有の洞様血管(sinusoids)の存在が関係しているのかも知れない(文献9).今後,血流スタディーなどでそのメカニズムの解明が進むことに期待したい.

執筆者: 

有田和徳