先端巨大症における術後低Na血症は他の下垂体腺腫と異なる

公開日:

2023年3月6日  

最終更新日:

2023年3月20日

Delayed postoperative hyponatremia in patients with acromegaly: incidence and predictive factors

Author:

Makino R  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Kagoshima University, Kagoshima, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:36323977]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2023 Feb
巻数:26(1)
開始ページ:42

【背景】

遅発性術後低ナトリウム血症(Delayed postoperative hyponatremia:DPH)は,下垂体病変に対する経蝶形骨洞手術後,約1週間をピークに発生する.先端巨大症は体液貯留傾向を示す特徴から他の下垂体腺腫と異なる術後経過を辿る可能性があるが,先端巨大症におけるDPHを検討した報告は少ない.本稿は鹿児島大学脳神経外科単一施設で,経蝶形骨洞手術を受けた先端巨大症を対象にDPHの予測因子,臨床経過を検討したものである.対象は94例,平均年齢52.0±14.7歳.術前薬物治療歴,下垂体卒中発症例,血液透析患者,小児例は除外した.

【結論】

DPH(術後Na≦134 mEq/L)は全体の41.5%で発生した.DPH群は非DPH群に比べ術前体重/BMIが低値で,入院期間が長かった(15.4 vs 17.9日).
血清Na濃度はPOD 7-9で最低値を示した.非DPH群では術後に体重減少傾向であった一方,DPH群ではPOD 5-7に一過性の増加を示し,尿量は一過性に減少した.内分泌学的寛解率は,術後初回評価時(POD 7-14)で21%,最終追跡時で60%であった(平均追跡期間:8.1±3.7年).術前後のGH,IGF-1値およびOGTT成長ホルモン底値(POD 7)に関して両群で差はなかった.

【評価】

本研究はDPHの頻度,関連因子を,先端巨大症患者に限定して検討した初めての後方視的研究である.成長ホルモン(GH)には腎のNa再吸収を促進し細胞外液を増加させる作用があり,手術によるGHの急激な低下は術後の尿量増加,体重減少を招くことなどから(文献1,2),先端巨大症におけるDPHは他と異なる性質を持つ可能性があるが,詳細な検討はなかった.
DPHは下垂体術後4~10日に無症候,もしくは一般的な低Na血症の症状で発症する.米国では再入院の最も多い理由とされ,医療経済的にも注目される事象である.腫瘍タイプや症候の有無などばらつきはあるが,既報における下垂体術後DPHの発生頻度は3-28%程度とされ,クッシング病や非機能性下垂体腺腫では頻度が高いとの報告もある.一般的にSIADHが原因とされ(文献3~5),飲水制限で予防・治療可能とされる.先端巨大症94例を対象とした本研究では41.5%がDPHを生じており既報よりも高い頻度であった.DPH群と非DPH群間に明らかな医原性(過剰輸液や一過性の多尿に対して用いたDDAVP製剤など)の違いは見られず,そのほか副腎不全などの関与も見られなかった.一方,DPH群で術前体重,BMIが低い結果であったが,高齢,女性,低BMIなどがDPHの関連因子という報告は以前よりあり,肥満者ではAVPに対する反応性が低下し,SIADHが起こりづらいことが理由として推察されている.本研究では術後1-2週間にルーチンのNa測定を行っており,日帰りや1泊手術などを含む欧米からの報告よりも正確にDPHの発生頻度を捉えている可能性がある.手術手技別には,本シリーズ前期の顕微鏡下32例と後期の内視鏡下+電磁誘導方式ナビゲーション42例のDPH発生率は其々50.0%,31.0%であった.手術手技が何らかの影響を与えている可能性は報告されているが,本稿では統計学的有意差はなかった.
本研究は先端巨大症における特異的な水・電解質状態とDPHとの関連を発見すべく,術前後の内分泌学的情報を検討しているが,統計学的有意性は見出せなかった.一方,問題点として,術後のGH減少による尿量増加と尿崩症との区別が困難であることや,抗利尿薬非使用例の検討において,最終的なサンプル数が少ない点などが挙げられる.
なお,本シリーズではルーチンでフルドロコルチゾン0.05 mgを術後8日間経口投与し,遠位尿細管でのNa再吸収促進によるDPH予防を図っていたが,結果として明らかな抑制は得られていないと考えられ,今後フルドロコルチゾン投与はCSWSによる低Na血症が証明された患者にのみ適応すべきと考えられる.

<コメント>
DPHは下垂体手術後の重要な合併症の一つである.先端巨大症ではGH/IGF-IによるNa貯留作用を認め,その状態が術後大きく変化しうることから,その他の下垂体腫瘍とは異なる病態や経過を呈する可能性がある.DPHの主な原因は術後の一過性SIADHであるが,DPHの発症機序を理解するためには,水とNa代謝の動態をそれぞれ丁寧に考察する必要がある.
本研究結果として,非DPH群では術後に体重減少傾向であった一方,DPH群ではPOD 5-7に一過性の増加を示し,尿量は一過性に減少した.非DPH群での術後の体重減少は,GH/IGF-I低下に伴うNaの喪失と共に,適切に水も排泄されていることを示唆しており,DPH群での一過性の体重増加と尿量の減少は,その時期にSIADHをきたしていたためと考えられる.これらの点は尿中浸透圧(比重)や尿中Na排泄量を評価すれば,その病態がより詳細になった可能性がある.
また本研究における術後のルーチンのフルドロコルチゾン投与はGH/IGF-I低下に伴うNa喪失による低Na血症を防止することを狙ったものと考えられるが,明らかな効果を示していない.このことはDPH防止のためには,Na代謝よりも,水バランス異常を来す一過性のSIADHに対する適切な対応がより重要なことを示唆している.(奈良県立医科大学糖尿病・内分泌内科学講座 高橋 裕)

執筆者: 

牧野 隆太郎