無症候性下垂体微小腺腫は5年間の追跡期間で3割が大きくなり2割が小さくなる:ハーバード大学関連病院の177例

公開日:

2023年3月27日  

最終更新日:

2023年4月12日

Long-Term Changes in the Size of Pituitary Microadenomas

Author:

Hordejuk D  et al.

Affiliation:

Division of Endocrinology, Diabetes and Hypertension, Brigham and Women's Hospital and Harvard Medical School, Boston, MA, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:36848656]

ジャーナル名:Ann Intern Med.
発行年月:2023 Mar
巻数:176(3)
開始ページ:298

【背景】

画像検査上は下垂体腺腫が偶然に発見される頻度は10-40%とされているが(文献1,2,3),その多くは微小腺腫である.このように偶然に発見された下垂体微小腺腫の自然史は十分にわかってはいない.本稿はハーバード大学関連の病院で,2003年以降17年間にMRIで無症候性の下垂体微小腺腫と診断された414例中,2回以上(平均3.8回)のMRIが実施された177例(女性72%,中央値4 mm)を対象として,下垂体微小腺腫の自然史を解析したものである.追跡期間中央値4.9年.追跡期間内に10例が手術を受け,その理由はACTH産生腺腫5例,GH産生腺腫1例,頭痛1例,性腺機能低下1例,理由不明2例であった.

【結論】

追跡期間中の腫瘍径の不変は78例(44%),増大したのは49例(28%),縮小したのは34例(19%),増大後縮小したのは16例(9%)であった.線形混合モデル解析による推定勾配は全体で0.016 mm/年(95% CI,0.037~0.069)であった.初期サイズが4 mm以下の微小腺腫は増大する傾向であり,推定勾配は0.09 mm/年(CI,0.020~0.161)であった.初期サイズが4 mmを超える微小腺腫では縮小する傾向であり,推定勾配は0.063 mm/年(CI,0.141~0.015)であった.
この追跡期間では,無症候性下垂体微小腺腫の2/3はそのサイズが不変か縮小した.

【評価】

剖検上の下垂体内腫瘤性病変の発見頻度は11-23%である(文献4,5).一方,MRIなどの画像検査で無症候性の下垂体腺腫が発見される頻度は10~38.5%とされているが(文献1,2,3),その多くは無症候性の非機能性微小腺腫である.
本研究はMassachusetts General Hospital,Brigham and Women's Hospital,及びそれらの関連病院で集積された臨床データレジストリーを基に,無症候性の下垂体微小腺腫(腫瘍径中央値4 mm)の自然史を検討したものである.その結果,追跡期間中央値4.9年(95% CI,3.88~5.32年)で,28%が増大,19%が縮小,44%が不変であった.興味深いのは,初期サイズが4 mm以下の腺腫は増大する傾向(0.09 mm/年)であるのに,初期サイズが4 mmを超える微小腺腫では縮小する傾向(0.063 mm/年)であったことであるが,著者らはその理由について言及していない.他施設の症例で検証されるべき事実である.
過去の文献では,日本における多施設共同研究に基づき,Sannoらが,無症候性の微小腺腫では平均4.2年間の追跡期間で13.5%(10/74)が増大したと報告している(文献6).また,2011年のメタアナリシスでは,無症候性のマクロアデノーマでは増大の頻度は年間12.5%であるのに対して,微小腺腫では増大の頻度は年間3.3%と低いことが報告されている(文献7).
これらの先行研究に比べれば,本シリーズにおける無症候性下垂体微小腺腫の増大の頻度は4.9年間で28%とやや高いが,増大の結果,腫瘍径が10 mmを超えたのは11 mmになった2例(1.7%)のみであり,そのことによる症状出現もなかった.
2011年の米国内分泌学会の無症候性下垂体病変についてのガイドラインによれば,初回MRI診断後1年目のMRI検査,その後3年目までの1~2年に1回のMRI検査を推奨している(文献8).本稿の著者らは,本研究の結果を受けて,もう少し少ない頻度でのMRI検査を提案している.すなわち,初回MRI診断後1年目のMRIで増大がなければ,それから3年後のMRI,その後は,症状出現がない限りは5年毎のMRIという観察スケジュールである.
効率的な医療資源の利用を意識した優れた提案であるが,視機能障害,下垂体機能低下,下垂体卒中などの症状出現に対する患者・家族の気づきを十分に喚起しておく必要性がありそうだ.

<コメント>
2022年に改定された内分泌腫瘍の新WHO分類において,下垂体腺腫は下垂体神経内分泌腫瘍(Pituitary Neuroendocrine Tumor:PitNET)に改称された.そのため,このコメントでも下垂体腺腫ではなく,あえてPitNETと呼ぶことにする.今回の検討では,腫瘍サイズの変化に主眼が置かれており,下垂体機能異常については言及されていないのが少し残念である.そんな中,腫瘍増大例が28%と比較的高率に認められた.一方,過去のメタ解析の結果ではmicro PitNETの増大率は3.3%と少なく,今回の研究とは異なる結果である(文献7).これに関しては,メタ解析の方はデータベースからの検索のため,対象症例に対する画像診断の方法やタイミングの違いなど様々な原因が考えられる.いずれにせよmicro PitNETがmacroになる頻度は1.7%と極めて稀であり,違和感のない結果と思われる.一方,縮小例も19%に見られたが,通常PitNETは下垂体卒中などを来さない限り縮小することは考えにくい.今回の症例の多くは,あくまでもMRI検査による推定診断であり,PitNET以外の疾患が含まれている可能性もあり注意が必要である.実際,手術が行われた10症例には病理学的にPitNETと診断されなかったものが4例も含まれていた.
本邦においては,脳ドックなどの普及もあり,下垂体偶発腫瘍に接する機会が多い.以前,コメント著者らも携わった下垂体偶発腫瘍の自然歴に関する多施設での全国調査は厚労省の班会議から発信されたものであるが(文献6),今後本邦からの同様な大規模調査が期待される.
ところでPitNETはICD-O codingで/3(悪性腫瘍)に変更された.しかし,今回の報告の様にmicro PitNETがmacro PitNETになることは極めて少なく,分類上は悪性腫瘍であっても,過度に心配する必要はないということを広く周知していく必要があるだろう.一方で下垂体機能低下症,視機能異常,および下垂体卒中に伴う症状を見逃さないようにすることが重要である.(日本医科大学脳神経外科 田原重志)

執筆者: 

有田和徳