公開日:
2023年5月24日Cytodifferentiation of pituitary tumors influences pathogenesis and cavernous sinus invasion
Author:
Asmaro K et al.Affiliation:
Departments of Neurosurgery, Pathology, and Medicine, Stanford University, Stanford, CA, USAジャーナル名: | J Neurosurg. |
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発行年月: | 2023 Apr |
巻数: | Online ahead of print. |
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【背景】
WHO内分泌腫瘍第5版では,下垂体腫瘍(PitNET)は下垂体転写因子発現によって分類されることになった(文献1,2).それでは,この転写因子発現と海綿静脈洞浸潤の関係はどうか.スタンフォード大学脳外科チームは,2018年から2022年に経鼻内視鏡下摘出術が実施された初発の下垂体腫瘍169例における下垂体転写因子発現と海綿静脈洞浸潤の関係を解析した.症例の内訳はPIT1:64例,TPIT:38例,SF1:62例,Null:5例であった.
海綿静脈洞浸潤は,手術時の内視鏡下観察所見と,著者らの採用する積極的な海綿静脈洞手術戦略により採取された海綿静脈洞内側壁の組織学的所見に基づいて判定された.
【結論】
全症例では33%が海綿静脈洞浸潤有りと判定された.海綿静脈洞浸潤はPIT1腫瘍で53%,TPIT腫瘍で24%,SF1腫瘍で18%に認められ,PIT1腫瘍では海綿静脈洞浸潤の可能性が高かった(調整オッズ6.08,p <.001).微小海綿静脈洞浸潤(Knospグレード 0–2にもかかわらず組織学的には浸潤があるもの)の頻度はPIT1腫瘍44%,TPIT腫瘍7%,SF1腫瘍13%であり,やはりPIT1腫瘍で高率であった(調整オッズ11.72,p <.001).
PIT-1腫瘍64例にはソマトトロフ腫瘍33例,ラクトトロフ腫瘍24例が含まれており,手術後の生化学的寛解は97%と91%と高率であった.
【評価】
本稿のポイントは,PIT1陽性の腫瘍(成長ホルモン産生腫瘍,プロラクチン産生腫瘍,多ホルモン産生腫瘍)は術前の画像診断で海綿静脈洞浸潤が疑われなくても海綿静脈洞内側壁への組織学的な腫瘍浸潤は44%と高率であったことである.一方,著者らが採用している海綿静脈洞内側壁の摘出を含む積極的手術戦略(Transcavernous Approach)により,成長ホルモン産生腫瘍,プロラクチン産生腫瘍とも9割以上の確率で生化学的な寛解を達成した.ちなみに,手術前の画像診断におけるKnospグレード 3-4の頻度はPIT1腫瘍で19%,TPIT腫瘍で21%,SF1腫瘍で11%と差はなかった.なお,従来の報告と同様に,PIT1陽性とならんで,下垂体腫瘍の大きさ(マクロアデノーマ)は海綿静脈洞浸潤と相関していた(p <.01).
2022年に森山記念病院のIshida,Yamadaらは,手術前に海綿静脈洞浸潤が予想されなくても,下垂体腫瘍が海綿静脈洞内側壁に内接しているものでは,海綿静脈洞内側壁には57%の頻度で腫瘍細胞の浸潤が認められ,海綿静脈洞内側壁の摘出を含む積極的な手術で,高率に機能性下垂体腫瘍の寛解が達成出来ることを報告している(文献3).また,少し遡って2014年に,虎の門病院のNishiokaらは,Knospグレード 0–1の成長ホルモン産生腫瘍でも,組織学的には14%に海綿静脈洞浸潤が認められることを報告している(文献4).
今回のスタンフォード大学からの報告では,微小海綿静脈洞浸潤(Knospグレード 0–2にもかかわらず,組織学的に海綿静脈洞内側壁への浸潤が認められるもの)の頻度は,対象症例全体では23%であったが,PIT1腫瘍ではその頻度はさらに高く,44%に達していたという.成長ホルモン産生腫瘍やプロラクチン産生腫瘍の全てはPIT1陽性であるので,手術前のホルモン検査でPIT1発現が予測出来るわけであるが,これらの腫瘍の約半数では微小海綿静脈洞浸潤を想定すべきということになる.それでは,これらの腫瘍ではたとえ術前画像診断で海綿静脈洞浸潤がなくても,手術での寛解を目指すのであれば,海綿静脈洞内側壁の摘出を含む積極的な手術を行うべきなのかも知れない.
なおTPIT陽性腫瘍38例では,微小浸潤を含めた海綿静脈洞浸潤は24%とPIT1陽性腫瘍の半分の頻度であった.従来,TPIT陽性のsilent corticotroph cell tumorは,海綿静脈洞浸潤の頻度が高いアグレッシブな腫瘍だと報告されているので(文献5,6),奇異の感がある.本研究でもそうであったように,従来から腫瘍の大きさと海綿静脈洞浸潤との相関は良く知られている.著者らは,silent corticotroph cell tumorはいわゆる非機能性下垂体腫瘍であるが故に,機能性下垂体腫瘍より大きく,そのことによって,従来の解析手法では海綿静脈洞浸潤率が高いと判定されてきたと推測しているようである.本研究の組織学的な解析結果との相違はそのためかも知れない.
本稿では,著者らは海綿静脈洞内側壁への腫瘍浸潤が疑われれば,内側壁を摘出したと記載されているが,何を判断基準にしたのか具体的ではない.Ishida,Yamadaらの報告(文献3)を考慮に入れて,Knospグレード 0–2の下垂体腫瘍では,PIT1陽性でかつ海綿静脈洞壁に内接する腫瘍に限っては,海綿静脈洞内側壁の摘出を行うというのも賢明な選択肢なのかも知れない.
<コメント>
この論文はFernandez-Mirandaらのグループからの報告で,既に同グループが昨年に発表した論文(文献7)の続編と思われる.今回は,Transcription factorで腫瘍を3群(PIT1,TPIT,SF1)に分けると,PIT1に属する腫瘍は他の群のものに比べて海綿静脈洞内側壁(CSMW)への浸潤が有意に多いというものである.またPIT1系列内での腫瘍(GH,PRL,TSH)の種類による浸潤頻度には有意差はなかったと報告されている.前回の報告では,特にsomatotroph tumorでは他のタイプの腫瘍に比べCSMWへの浸潤が有意に多かったという結論であった.一方我々は,腫瘍の種類によるCSMW浸潤頻度に有意差は認められなかったと報告している(文献3).
ただし,以前からsomatotroph tumorでは進展方向が他の腫瘍と異なることがLaws, Zadaらのグループから指摘されている(文献8).これは,somatotroph tumorでは,非機能性下垂体腫瘍などよりも有意に蝶形骨洞方向への浸潤が多いというものであるが,その結果として側方への浸潤,すなわちCS浸潤が多くなる可能性は否定できない(機械的な因子による).ただし今回の報告は浸潤能の問題を検討したものである.すなわちbiological activityの違いを反映していることになる.この点の検証には更なる症例蓄積が必要と思われる.最も重要なことは,機能性下垂体腫瘍では種類のいかんを問わず,手術成績向上のためには,このCSMWへのoccult invasionを見落とさないことである.(森山記念病院脳神経外科 山田正三)
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Asa SL, et al. Overview of the 2022 WHO Classification of Pituitary Tumors. Endocr Pathol. 33(1):6-26, 2022
- 2) Melmed S, et al. Clinical biology of the pituitary adenoma. Endocr Rev. 43(6):1003-1037, 2022
- 3) Ishida A, et al. Resection of the Cavernous Sinus Medial Wall Improves Remission Rate in Functioning Pituitary Tumors: Retrospective Analysis of 248 Consecutive Cases. Neurosurgery. 91(5):775-781, 2022
- 4) Nishioka H, et al. Aggressive transsphenoidal resection of tumors invading the cavernous sinus in patients with acromegaly: predictive factors, strategies, and outcomes. J Neurosurg. 121(3):505-510, 2014
- 5) Ben-Shlomo A, et al. Silent corticotroph adenomas. Pituitary. 21(2):183-193, 2018
- 6) Strickland BA, et al. Silent corticotroph pituitary adenomas: clinical characteristics, long-term outcomes, and management of disease recurrence. J Neurosurg. May 7:1-8, 2021
- 7) Mohyeldin A, Fernandez-Miranda JC, et al. Prospective intraoperative and histologic evaluation of cavernous sinus medial wall invasion by pituitary adenomas and its implications for acromegaly remission outcomes. Sci Rep. 12(1):9919, 2022
- 8) Zada G, Laws ER, et al. Patterns of extrasellar extension in growth hormone–secreting and nonfunctional pituitary macroadenomas. Neurosurg Focus. 29:E4, 2010; Pituitary. 25:480-485, 2022
参考サマリー
- 1) 複数の下垂体転写因子が発現している多ホルモン性下垂体腺腫はアグレッシブである
- 2) やはり下垂体腺腫の呼称は廃止されるべきである:WHO内分泌腫瘍第5版(2022)下垂体部腫瘍の概要が明らかに
- 3) 下垂体腺腫の海綿静脈洞浸潤の予測には修正Knosp分類を3段階(0+1,2+3A,3B+4)に分けるのが良い:4,321例のメタアナリシスから
- 4) 腺腫が接している海綿静脈洞内側壁も除去すれば機能性下垂体腺腫の治癒率は向上する
- 5) 海綿静脈洞に接する三角形のACTHomaは海綿静脈洞内へ浸潤している:sail signの提案
- 6) アグレッシブ下垂体腫瘍と下垂体癌の臨床像:欧州内分泌学会サーベイの171例
- 7) Silent corticotroph adenoma(SCA)の臨床像:南カリフォルニア大学での100例の長期観察より
- 8) Silent corticotroph adenomasとは何か:T-pit免疫染色との関係