プロラクチン産生下垂体腫瘍の体積-血中プロラクチン値の相関関係と手術の効果

公開日:

2023年7月24日  

Correlation between tumor volume and serum prolactin and its effect on surgical outcomes in a cohort of 219 prolactinoma patients

Author:

Osorio RC  et al.

Affiliation:

School of Medicine, University of California, San Francisco, CA, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:36242577]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2022 Oct
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

プロラクチン産生下垂体腫瘍の体積と血中プロラクチン値がある程度相関することは良く知られているが(文献1,2),その相関と手術効果の関係については不明であった.UCSF脳外科は,2012年以降に手術療法を受けたプロラクチン産生下垂体腫瘍287例のうち,ドパミン作動薬投与中であった78例を除外した219例(年齢中央値35歳,女性64%)を対象として,この点を検討した.平均腫瘍体積は5.7 cm3,平均血中プロラクチン値は752 μg/Lであった.全症例の66.7%で術後寛解が達成された.
男性は女性に比して平均腫瘍体積は大きく,血中プロラクチン値/腫瘍体積比は低かった(ともにp <.001).

【結論】

ピアソン相関解析では,女性患者の方が体積1 cm3あたりの血中プロラクチン値の上昇幅は大きかった(186 vs 80 μg/L,p <.001).術後非寛解症例では,寛解例に比して体積1 cm3あたりの血中プロラクチン値の上昇幅が大きかった(111 vs 66 μg/L,p <.001).
術後非寛解例における残存腫瘍では体積1 cm3あたりの血中プロラクチン値の上昇幅は78 μg/Lであった.
ROC解析では,術後寛解の予測に関して,術前の血中プロラクチン値と腫瘍体積に基づいて,有意(p ≤.01)の閾値設定が可能であった.ただし,Knospグレード ≥3では有意の閾値設定が出来なかった.

【評価】

従来の報告によれば,プロラクチノーマ手術後の長期の内分泌学的寛解は21–66%と決して満足すべきものではない(文献3,4).本稿は,これまで最大規模のプロラクチノーマ症例219例を対象に,腫瘍体積と血中プロラクチン値の相関関係が手術効果(内分泌学的寛解)に及ぼす影響を検討したものである.本シリーズ全体では66.7%で術後寛解が達成された.術後寛解例に比較して非寛解例では腫瘍体積が大きく(平均2.45 vs 12.08 cm3),血中プロラクチン値が高く(平均1744.5 vs 256.2 μg/L),Knospグレード3以上が多かった(80.6 vs 19.4%)のは当然の結果であろう.
本研究結果でユニークなのは,ピアソン相関解析によって,術後非寛解症例では,寛解例に比して体積1cm3あたりの血中プロラクチン値の上昇幅が大きい(111 vs 66 μg/L,p <.001)ことを明らかにした点である.
また,女性患者では,男性に比較して,腫瘍体積当たりの血中プロラクチン値,体積1 cm3あたりの血中プロラクチン値の上昇幅が大きいことも明らかにしている.これらの違いの理由は,おそらくは腫瘍が有している分子生物学的特性,あるいは患者の内分泌学的環境の違いによるものと思われるが,本稿ではその詳細は明らかにしていない.著者らの次報に期待したい.
本研究では,腫瘍の海綿静脈洞浸潤の有無やKnospグレード毎に手術後寛解を予想する術前血中プロラクチン値と術前腫瘍体積のROC解析を行っている.これによれば,AUCが最も大きかったのは,Knospグレード <3における術前血中プロラクチン値で,閾値(カットオフ)345.95 μg/L以下で,感度は0.935と最も高く,特異度0.548であった.ただし,下垂体外科医が知りたいのは,むしろ特異度の方である.本研究では術前画像診断での海綿静脈洞浸潤有りの症例で血中プロラクチン値の閾値282.00 μg/L以上では,特異度0.851であった.そのような症例では,内分泌学的な寛解を目標とした手術を行う意義は少ないことになる.
一方,Knospグレード ≥3では,血中プロラクチン値でも腫瘍体積でも,手術後寛解を予想する有意の閾値設定が出来なかったということであるが(p =.4131とp =.491),Knospグレード ≥3では手術後寛解率が19.4%と極めて低いことを考慮すれば,こうした腫瘍も手術後寛解を目標とした手術の適応にはならないということになる.
本研究の問題点は,治療のゴールの違い,すなわち妊孕性の回復なのか,腫瘍による占拠性効果の除去なのかを問わず,手術療法を受けた全ての患者が解析対象になっている事である.男性や閉経以降の女性であれば,手術後に少々高プロラクチン血症あるいは残存腫瘍があったとしても,臨床的にはあまり問題にならない.このため,そのような患者の手術では本研究の手術実施医側に或る種の心理的なバイアスが生じた可能性はある.
今後は,妊孕性の回復のために内分泌学的な寛解と同時に下垂体機能の温存・回復が達成されなければならない妊孕期女性を対象に絞って,同様の検討が行われることを期待したい.

執筆者: 

有田和徳