公開日:
2023年8月21日最終更新日:
2023年8月22日Intraoperative Prediction of Long-Term Remission in Acromegaly
Author:
Zachariah MA et al.Affiliation:
Department of Neurosurgery, University of Mississippi Medical Center, Jackson, Mississippi, USAジャーナル名: | Oper Neurosurg (Hagerstown). |
---|---|
発行年月: | 2023 Jan |
巻数: | 24(1) |
開始ページ: | 74 |
【背景】
先端巨大症の術後長期寛解の術中予測は可能か.ミシシッピ大学医療センター脳外科は術中血中ホルモン(GH)値などの諸因子と長期寛解の関係を後方視的に検討した.対象は,2010年以降に経鼻内視鏡下摘出手術を行った先端巨大症患者47例(平均年齢47.6歳,男性59.6%,非初回手術12.8%).被膜外摘出は27.7%で実施された.GH値は摘出操作開始前,摘出操作中,摘出操作終了5分以内に測定した.長期寛解は,追加治療なしで,最終追跡時にIGF-1が性・年齢相応の正常範囲内で,ランダムに測定したGH値が1.0 ng/mL以下と定義した.追跡期間中央値は4.51年.
【結論】
61.7%(29例/47例)が長期寛解を達成した.海綿静脈洞浸潤(p <.01),鞍上部進展(p <.01),腫瘍径>1 cm(p =.03)は非寛解と相関した.ROC解析では,3回測定した術中GHの最低値による術後長期寛解の予測精度はAUC:0.7107であった.術中GH最低値のカットオフ4.66 ng/mL以下では,感度83.3%,特異度72.7%で長期寛解を予測した.海綿静脈洞浸潤と鞍上部進展が一定であると仮定した場合のGH最低値の術後長期寛解の予測精度はAUC:0.822であった.
【評価】
成長ホルモン(GH)の血中半減期が約30分であることを考慮すれば,腫瘍全摘出後早期に血中GH値が低下することは予測される(文献1,2,3).本稿の研究は後方視的な解析結果であり,手術中に腫瘍摘出が完遂出来たことの判定のためにGH値を用いたものではないが,摘出操作開始前,摘出操作中,摘出操作終了後5分以内の3回測定した血中GH最低値(おそらく操作終了後)が長期寛解の予測に役立つことを示唆したものである.血中GH最低値による長期寛解予測のROC解析ではAUCが0.7107と比較的高い事を示している.ただし,本研究では摘出操作後の採血が5分以内とGHの半減期を考慮すればかなり早いタイミングである.一方,摘出操作終了後20-30分後に採血すると,迅速測定に30分くらいを要するので(文献4),摘出操作終了後約1時間,多くの場合は無駄に時間を費やすことになる.今後,摘出操作終了から採血までのタイミングと長期寛解の予測精度に関する検討が必要であろう.
さらに,長期寛解の予測には,摘出操作終了後のGHワンポイント値が良いのか,AbeらやOtaniらの報告のように低下速度も考慮すべきなのかも検討すべき課題である(文献3,4).
比較的小型で,術前画像診断で海綿静脈洞浸潤がない腫瘍では,術者の全摘出完遂の判断と長期寛解の実現に差は少ないように思う.術者にとって悩ましいのは,腫瘍が海綿静脈洞壁に接しているかあるいは圧迫しているが,一見正常に見える海綿静脈洞内側壁を摘出して海綿静脈洞内を観察すべきかどうかの判断である(文献5).このようなoccult残存の推定に,摘出操作終了後のGH測定が特に有用かも知れない.
本稿では,カットオフ値毎の感度と特異度も求めているが,血中GH最低値が1.91 ng/mL以下では感度91.7%で長期寛解を予測し得,逆にGH最低値が14.2 ng/mL以上では特異度94%で非寛解を予測する結果であった.このようなカットオフ値も,術者の摘出操作終了/継続の判断には重要となるであろう.
術中迅速GH測定値を摘出操作終了か継続の判断に用いた研究結果は既に本邦のAbeらやYanoらによって報告されている(文献3,6).Abeらは,一般に摘出操作終了後60分のGH値が4.5 ng/mL以下で腫瘍全摘出と判断し,摘出開始前のGH値が40 ng/mL以上の腫瘍では,摘出操作終了時に比べて摘出操作終了後20分値が50%以上低下した場合を腫瘍全摘出と判断している(文献3).Yanoらは術中GH測定値に加えて内視鏡下観察所見と術中迅速組織像(腫瘍境界部への腫瘍細胞浸潤の有無)を併せたスコアリングで長期寛解の予測を行っている(文献6).
将来,GH測定の迅速化がさらに進めば,術中GH値に基づく摘出操作終了/継続の判断が,先端巨大症手術のルーチンとなるかも知れない.
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) van den Berg G, et al. Can intra-operative GH measurement in acromegalic subjects predict completeness of surgery?. Clin Endocrinol (Oxf).49(1):45-51, 1998
- 2) Valdemarsson S, et al. Evaluation of surgery for acromegaly: role of intraoperative growth hormone measurement?. Scand J Clin Lab Invest. 61(6):459-470, 2001
- 3) Abe T, et al. Recent primary transnasal surgical outcomes associated with intraoperative growth hormone measurement in acromegaly. Clin Endocrinol (Oxf). 50(1):27-35, 1999
- 4) Otani R, et al. Rapid growth hormone measurement during transsphenoidal surgery: analysis of 252 acromegalic patients. Neurol Med Chir (Tokyo).52(8):558-562, 2012
- 5) Ishida A, et al. Resection of the Cavernous Sinus Medial Wall Improves Remission Rate in Functioning Pituitary Tumors: Retrospective Analysis of 248 Consecutive Cases. Neurosurgery.91(5):775-781, 2022
- 6) Yano S, et al. Intraoperative scoring system to predict postoperative remission in endoscopic endonasal transsphenoidal surgery for growth hormone-secreting pituitary adenomas. World Neurosurg. 105:375-385, 2017
参考サマリー
- 1) 腺腫が接している海綿静脈洞内側壁も除去すれば機能性下垂体腺腫の治癒率は向上する
- 2) Empty sellaを伴う先端巨大症患者では手術による寛解率が低い
- 3) 先端巨大症治療中のIGF-1濃度はGH分泌能の指標にならない
- 4) 先端巨大症の術後治癒:新基準と旧基準群で代謝指標に違いはない
- 5) 成長ホルモン+プロラクチン同時産生腺腫は成長ホルモン単独産生腺腫より治療困難
- 6) 旧基準で治癒と診断された先端巨大症患者は,新基準治癒群より綿密なモニタリングが必要か
- 7) 先端巨大症患者における手術後のOGTtにおけるGH底値の正常化(<0.14 μg/L)がもたらすもの
- 8) 先端巨大症術後寛解後,高血圧や糖尿病はいつ頃までによくなるのか
- 9) 先端巨大症治療後のGHとIGF-1の正常化の乖離:メタ解析の結果