非機能性微小下垂体腺腫は5年間の追跡期間で0.2%だけが視機能障害をきたす大きさになる:過去最大,419例の英国コホート

公開日:

2023年10月19日  

最終更新日:

2023年10月18日

Natural history of non-functioning pituitary microadenomas: results from the UK non-functioning pituitary adenoma consortium

Author:

Hamblin R  et al.

Affiliation:

Institute of Metabolism and Systems Research, University of Birmingham, Birmingham, United Kingdom

⇒ PubMedで読む[PMID:37345849]

ジャーナル名:Eur J Endocrinol.
発行年月:2023 Jul
巻数:189(1)
開始ページ:87

【背景】

腫瘍径10 mm未満の非機能性微小下垂体腺腫(PitNET)の自然史はまだ充分に明らかになっていない.
本稿は英国の23の内分泌センターが行った後方視研究である.対象は2008年以降に研究参加施設で診断された非機能性微小下垂体腺腫の459例(中央値44歳,女性307例,中央値6 mm).MRI検査の理由は頭痛19.8%,神経症状15.0%,性腺機能低下13.1%,一過性高プロラクチン血症9.4%などであった.診断時の負荷試験では,FSH/LH欠損が5.7%で認められた.
全症例のうち419例が中央値3.5年間(IQR:1.7-6.1)の追跡期間で2回以上のMRIモニタリングを受けた.

【結論】

追跡期間中に1例(0.2%)のみが下垂体卒中を発症した.追跡期間中に49例(11.7%)が増大し,79例(18.9%)が縮小した.
腫瘍径増大中央値は2 mm(IQR 1-3)であった.増大した腫瘍の49%(全例が診断時 >5 mm)が増大後10 mmを超えた.このうち2例のみが新たに下垂体機能低下症と診断された.1例(0.2%)のみが視機能障害を呈し,この1例を含む8例(1.9%)が手術を受けた.
腫瘍増大の累積確率は3年:7.8%,5年:14.5%,7年:18.3%であり,腫瘍縮小の累積確率は3年:14.1%,5年:21.3%,7年:26.0%であった.

【評価】

MRIの普及に伴い,無症候性の下垂体腺腫(PitNET)が発見される頻度は増加しており,米国やフィンランドでの疫学調査によれば最近の15-20年の間に3倍近くに増えている(文献1,2).しかし,無症候性下垂体腺腫の10-30%を占める非機能性微小下垂体腺腫の取り扱いについての統一した指針は確定していない.これは主として,その自然史が明らかになっていないことによる.過去の報告では,非機能性微小下垂体腺腫が増大する可能性は0-53%,下垂体機能低下症が新たに発生する可能性は0-50%と幅が大きい.
一方,2023年3月に出版されたハーバード大学関連病院の非機能性微小下垂体腺腫177例の後方視研究では,中央値4.9年間の追跡期間中の腫瘍径の不変は78例(44%),増大したのは49例(28%),縮小したのは34例(19%),増大後縮小したのは16例(9%)であった.増大の結果,腫瘍径が10 mmを超えたのは11 mmになった2例(1.7%)のみであり,そのことによる症状出現はなかった(文献3).2022年のオレゴン大学からの報告でも,非機能性微小下垂体腺腫347例の中央値29ヵ月の経過観察では,増大を示したのは22例(8.1%)のみで,これらの症例のいずれも新規の視機能障害や下垂体機能低下は示さなかった(文献4).
本稿は英国の主要な内分泌施設において診断された419例という過去最大数の非機能性微小下垂体腺腫を対象とした追跡研究の結果である.その結果,5年間における累積増大確率は14.5%で,対象症例全体で,この期間中の新規の視機能低下の発生は0.2%,新規の下垂体機能低下の発生は0.6%に過ぎなかった.
これら米国と英国の大規模研究の結果を見れば,微小な非機能性下垂体腺腫はあまり増大せず,数年の期間では,症候性となることは極めてまれであるという理解で良さそうである.日本における多施設共同研究でも,無症候性の微小腺腫では平均4.2年間の追跡期間で13.5%(10/74)が増大したと報告されており(文献5),英国コホートの累積増大確率14.5%とほぼ一致している.
ところで,2011年の米国内分泌学会の無症候性下垂体病変についてのガイドラインによれば,非機能性微小下垂体腺腫に対しては初診後1年目のMRI検査,その後3年目までの1-2年に1回のMRI検査が推奨されている(文献6).ドイツ内分泌学会も,初診後3年間は毎年1回の画像による経過観察を推奨している(文献6).
かたや,本稿の著者らは,本研究結果は患者や臨床家を安心させるものであり,非機能性微小下垂体腺腫の画像による追跡は,上記のガイドラインよりも長いインターバル,すなわち初診後3年目で良いことを示しているとまとめている.共感し得る要約である.新規下垂体機能低下症の出現率の低さは,頻回の下垂体ホルモンスクリーニングも不要な事を示唆している.

執筆者: 

有田和徳