小児頭蓋咽頭腫治療後の成長ホルモン補充開始までの待期期間は6ヵ月あれば良い:71例約8年間の追跡結果

公開日:

2023年11月27日  

最終更新日:

2023年11月27日

GH and Childhood-onset Craniopharyngioma: When to Initiate GH Replacement Therapy?

Author:

Quoc AN  et al.

Affiliation:

Paediatric Endocrinology, Diabetology, Gynaecology Department, Necker-Enfants Malades University Hospital, AP-HP Centre, Paris, France

⇒ PubMedで読む[PMID:36794424]

ジャーナル名:J Clin Endocrinol Metab.
発行年月:2023 Jul
巻数:108(8)
開始ページ:1929

【背景】

小児頭蓋咽頭腫の患者では手術を含む治療後に高率に成長ホルモン(GH)欠損症を呈するので(文献1,2),患児の成長を考慮すれば早期の補充が必要である.しかし,GHの早期投与による腫瘍の増大や再発リスクが危惧され,ガイドライン上は治療終了後12ヵ月間の経過観察が示唆されている(文献3,4).
パリのネッカー小児病院のチームは,そのリスクの有無を明らかにするため,小児期に診断された頭蓋咽頭腫でGH補充療法を受けた71症例(初診時年齢中央値7.4歳)の中央値7.9年間の経過観察結果を解析した.
治療後GH開始までの期間は>12ヵ月群:27例,<12ヵ月群:44例,6-12ヵ月群:29例であった.

【結論】

追跡期間内のイベント(腫瘍の増大や再発)発生は各群とも約32%で差はなかった.K-M生存曲線解析でも,治療後2年と5年の無イベント生存率は,>12ヵ月群で81.5%と69.4%,<12ヵ月群で72.2%と69.8%,6-12ヵ月群で72.4%と72.4%と差はなかった.Log-rankテストでも3群間に差はなかった.10年の無イベント生存率は各群とも約65%で差はなかった.
頭蓋咽頭腫の増大・再発のリスクは複数回手術群,放射線照射群で低かったが,成長ホルモン開始時期とは関係がなかった.

【評価】

頭蓋咽頭腫細胞には成長ホルモン受容体が存在し,成長ホルモン投与による腫瘍増殖の可能性が示唆されているが(文献5,6),これまでの所,生理的補充量の成長ホルモン投与が頭蓋咽頭腫の増大や再発を促進するとのエビデンスはない.このため,最近では治療後あまり期間を置くことなく成長ホルモン補充を開始することも示唆されているが(文献7,8),その根拠もまた乏しい.
本稿は,成長ホルモン補充が行われた小児頭蓋咽頭腫症例71例の後方視的解析である.補充前の治療は手術93%(複数回52%),放射線照射63%であった.その結果,最終治療後から成長ホルモン補充開始までの期間(>12ヵ月群,<12ヵ月群,6-12ヵ月群)毎のイベント(腫瘍の増大か再発)発生は,約8年の経過観察期間で33%,32%,31%,年あたり4.1%,4.5%,4.1%で差はなかった.
著者らはこの結果を受けて,小児頭蓋咽頭腫におけるGH補充は最終治療後6ヵ月待てば安全に開始出来ると示唆している.
治療前からの成長ホルモン分泌障害によって成長発育障害を呈し,さらに治療による成長ホルモン分泌の悪化で,成長発育障害が顕著になっている患児にとって,骨端盤が閉鎖してしまう前に成長ホルモン補充を開始することは大きな目標である.したがって,本稿の著者らが示唆するように小児頭蓋咽頭腫患者に対する成長ホルモン補充が最終治療後6ヵ月後に開始出来るとすれば,患児と家族にとっては大きな福音となる.
一方で,成長ホルモン補充開始を6ヵ月待たせる根拠はどこにあるのかという疑問が新たにわいてくる.よほどアグレッシブな腫瘍でないかぎりは,治療後一通りのケアと画像評価が終わった段階,例えば3ヵ月目で成長ホルモン補充を開始するという選択肢もあるのではないか.ちなみに,今回の解析対象とはなっていないが,本シリーズ71例のうち,補充開始までの期間<6ヵ月の15例を抽出すると,その中でのイベント発生は5例(33%)で上記3群と統計学的な差はなさそうである.
今後,最終治療後から成長ホルモン補充開始までの期間を<6ヵ月,6-12ヵ月,>12ヵ月で分けた前向き試験が必要のように思われる.

執筆者: 

有田和徳