SSTR2の低発現は成長ホルモン産生下垂体腫瘍の浸潤性と相関する

公開日:

2023年12月25日  

最終更新日:

2023年12月26日

Correlation between tumor invasion and somatostatin receptor subtypes in acromegaly

Author:

Zhang S  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Center for Pituitary Tumor Surgery, The First Affiliated Hospital, Sun Yat-sen University, Guangzhou, Guangdong, China

⇒ PubMedで読む[PMID:37856412]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2023 Oct
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

成長ホルモン産生下垂体腫瘍におけるソマトスタチン受容体各サブタイプ(SSTR-1,-2,-3,-5)の発現程度は,ソマトスタチン作動薬(SSA)の効果と相関することが知られている(文献1-4).一方,SSTRサブタイプの発現と腫瘍径や浸潤性の関係については十分に判ってはいない.
中国・中山大学脳外科は,2016年以降に手術を行った102例の先端巨大症を対象にSSTRサブタイプ-mRNAの発現程度と腫瘍サイズ,術前MRIにおける腫瘍の浸潤性,SSA(オクトレオチド,ランレオチド)への反応性などとの関係を検討した.
浸潤性腫瘍とはKnospグレード3-4かHardyグレードIII-IVと定義した.

【結論】

浸潤性腫瘍79例では非浸潤性43例に比し,体積が大きく(平均10 vs 3.5 cm3),SSTR2発現が低く,SSA有効率が低かった(36.4 vs 91.7%)(いずれもp <.001).腫瘍体積とSSTR2発現は逆相関した(r =−0.214,p =.031).SSTR-1,-3,-5の発現程度と腫瘍の浸潤性は相関しなかった.SSTR2発現は浸潤性腫瘍で低かった(p <.001).多変量解析では,腫瘍の浸潤性と有意に相関したのはSSTR2低発現,大きな腫瘍径,大きな腫瘍体積であった.ROC解析では,SSTR-2低発現は腫瘍の浸潤性を正確に予測した(AUC:0.805).

【評価】

本稿では成長ホルモン産生下垂体腫瘍においてSSTR2の低発現が腫瘍の浸潤性と相関することを明らかにした.一方,浸潤性腫瘍ではSSAの効果が低かったが,これはSSTR2の低発現と関係していると著者らは類推している.既に,SSTR2の発現の強さとSSA(オクトレオチド,ランレオチド)の効果が相関することは知られているが(文献5,6),本研究ではqRT-PCRによるmRNA発現と免疫組織学的手法(IHC)による蛋白発現の解析で,SSTR2の低発現がSSAの効果の低さと相関することを改めて確認した.
それでは何故SSTR2低発現と腫瘍の浸潤性が相関するのか.一方で,ドパミンD2受容体の低発現と成長ホルモン産生下垂体腫瘍の浸潤性発育が相関することも報告されている(文献7).こうした,SSTR受容体やドパミン受容体の低発現と腫瘍の増殖性や浸潤性が相関していることの生物学的背景については,本稿では明らかにされていない.今後の課題である.
ただし,SSTR2の発現はIHCでも評価が可能であるので,実用性は高く,少なくともIHCで陰性のものに関してはSSAの効果が乏しいと予測して,成長ホルモン産生下垂体腫瘍の術後残存に対しては,SSA投与よりも再手術かガンマナイフを考慮した方が良さそうである.
本研究では検討されていないが,もう一つのSSAであるパシレオチドの効果もSSTR2の発現に左右されるので(文献8),同様と考えて良いであろう.

執筆者: 

有田和徳

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