転移性下垂体腫瘍の原発巣:ドイツ下垂体レジストリーの96例

公開日:

2024年1月10日  

Metastases to the pituitary gland: insights from the German pituitary tumor registry

Author:

Haberbosch L  et al.

Affiliation:

Department of Endocrinology and Metabolism, Charité—Universitätsmedizin Berlin, Berlin, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:37899389]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2023 Dec
巻数:26(6)
開始ページ:708

【背景】

ドイツ下垂体腫瘍登録は世界最大規模の下垂体腫瘍の前向きレジストリーであり(文献1),1990-2022年の間に17,896例の下垂体疾患が登録されている.本稿は,その中から組織診断が確定した転移性下垂体腫瘍96例(0.5%)について解析したものである.このうち73例(76%)が手術症例で,23例(24%)が剖検例であった.22例(22.9%)では下垂体転移の診断が原発腫瘍の発見に先行していた.

【結論】

患者平均年齢は64歳(11-92歳),男女は同数であった.原発腫瘍は乳癌25%,原発不明癌22.9%(全例が下垂体転移巣手術例),肺癌18.8%,腎癌14.6%,前立腺癌6.3%,胃癌2.1%,尿路上皮癌2.1%,黒色腫2.1%などの順であった.乳癌は女性例の50%を占めた.剖検時発見の23例では,9例では後葉のみ,2例では前葉と後葉,3例では後葉と下垂体被膜,4例では前葉のみ,3例では前葉と下垂体被膜,2例では下垂体被膜のみに腫瘍組織が認められた.

【評価】

悪性腫瘍の下垂体転移すなわち転移性下垂体腫瘍の発生頻度は極めてまれで,全下垂体腫瘍手術症例の1%,全頭蓋内転移性腫瘍の1%以下とされている(文献1,2).本研究のシリーズは全ての下垂体部腫瘍性病変の0.5%と従来の報告よりはやや少ない印象であるが,組織診断確定例に絞っていることがその一因と思われる.
転移性下垂体腫瘍の原発巣で最も多いのが乳癌で,続いて肺癌というのはこれまで欧米から報告されたシリーズやメタ解析の結果と一致している(文献3,4,5,6).下垂体転移の中で乳癌が最も多い理由としては,乳癌が頭蓋底骨へ転移しやすい傾向を有していることと,下垂体にはプロラクチンが豊富に含まれていることが推定されている.プロラクチンが下垂体に転移した乳癌細胞の増殖を促すパラクリンとしての役割を果たすのかも知れない(文献7).なお,日本からの報告では肺癌が1位で乳癌が2位となっている(文献2).これは,日本人では欧米人に比較して乳癌の罹患率が低いことを反映しているものと思われる.
本研究においてユニークなのは,剖検の23例において,腫瘍の局在(浸潤様式)が詳細に検討されていることである.これによれば腫瘍の後葉への局在(浸潤)は14例(60.8%)で認められ,下垂体前葉への浸潤9例(39.1%)よりも高頻度であった.これは下垂体後葉が門脈系ではなく全身循環から直接に灌流されていること,周囲骨組織に転移した腫瘍の後葉への進展の可能性によって説明可能かもしれない.従来から,転移性下垂体腫瘍は,他の下垂体部腫瘍とは異なり尿崩症を呈するものが多いことが報告されているが(文献2,6),その背景を組織学的に改めて証明したことになる.
残念ながら本稿では,転移性下垂体腫瘍の臨床像,画像所見,鑑別診断,治療経過については記載がない.これらは次報に期待したい.

執筆者: 

有田和徳