非機能性下垂体腺腫の全摘出後,どのくらい経過観察すれば治癒と判定できるのか

公開日:

2024年1月10日  

最終更新日:

2024年1月11日

Conditioned recurrence-free survival following gross-total resection of nonfunctioning pituitary adenoma: a single-surgeon, single-center retrospective study

Author:

McClure JJ  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, University of Virginia, Charlottesville, Virginia, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:38064693]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2023 Dec
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

非機能性下垂体腺腫(NFPA)の肉眼的全摘後の再発は,10年以内の追跡では5%未満と低い(文献1).では,もっと長期に追跡したらどうなのか.また肉眼的全摘出後に,ここまで再発がなければその後の経過観察は不要という安全域はあるのだろうか.バージニア大学脳外科はこの問題に答えるため,コレスポンディングオーサーのJA Janeが2004年から2018年の間に肉眼的全摘を達成したNFPA 148例を後方視的に追跡した.患者年齢中央値57歳,腫瘍体積平均値3,076 mm3,Knospグレード0-2は86.5%,グレード3は13.5%であった.追跡期間は14-217ヵ月で中央値は91ヵ月.

【結論】

12例(8.1%)に再発(いずれも無症状)が認められた.再発例は非再発例に比して腫瘍体積が大きく,追跡期間が長かった.
K-M解析では,全摘出後12,36,60,84,120ヵ月目に画像上再発がなかった症例における180ヵ月(15年)目の無再発率は82,84,86,88,92%であった.120ヵ月目で再発がなかった患者群(41例)でも,その後5年間で2例(4.8%)が再発した.
手術後再発は前年比1.07%のオッズで経過観察期間の長さに従って徐々に増加した.
再発の12例中10例でガンマナイフ治療が行われ,2例(75歳)は無症状のため経過観察中である.再手術例はなかった.

【評価】

非機能性下垂体腺腫(NFPA)の肉眼的全摘出後の患者148例を最長217ヵ月間(中央値91ヵ月)追跡した本研究では,再発が12例(8.1%)に認められた.また,たとえ肉眼的全摘出後10年間再発がなかった症例でも15年目の再発は4.8%(K-M解析での無再発率は92%)と無視出来ない頻度であることも示している.さらに,再発のリスクは前年比オッズ1.07%と低いながらも,途絶えることなく続くことを明らかにしている.なお,従来の報告と同様(文献2,3,4)に再発例は非再発例に比較して術前腫瘍体積は有意に大きく(8,303 vs 3,040 mm3,p =.0003),追跡期間が長かった(142 vs 87ヵ月,p <.0001).
これらの結果は,NFPAのうち特に大きな腫瘍では,術中肉眼的にあるいは術後MRIで全摘出と判断されても微小な取り残しは有り得,こうした微小残存腫瘍が長期経過で徐々に増殖することを示唆している.著者らはこの結果を基に,NFPAでは肉眼的全摘出が達成できても,15年間の追跡では10%くらいの再発が起こり得るので,少なくとも15年くらいは経過観察しなくてはならないとまとめている.
しかしながら,微小な残存腫瘍はその後も増大を続けるであろうから,「これで治癒です!」という,安全宣言は出来ないことになる.
なお本研究の症例シリーズでは,従来再発との関係が示唆されている(文献5,6,7)NFPAのサブタイプ(サイレント・コルティコトロフ腫瘍),術前Knospグレード,あるいはKi-67陽性率と再発との関係はなかった.これは再発例が12例と少なかったことが影響している可能性があるので,このような因子は,今後も経過観察に際して十分に配慮されるべきであろう.
では,術者が肉眼的全摘出と判断したNFPAで,何故取り残しが生じるのか.一つは海綿静脈洞壁への微小浸潤が挙げられる(文献8).もう一つは腫瘍被膜内の腺腫細胞の残存が挙げられる.下垂体腺腫の約半数で,腺腫の周囲に下垂体組織が圧縮され線維組織が増生した被膜(pseudocapsule)が存在するが,その50%で被膜内に腺腫細胞クラスターが含まれている(文献9).最近,NFPAに対しても被膜外で腫瘍を摘出し,腺腫細胞を余すところなく摘出しようという試みが行われ,それによっても少なくとも下垂体機能低下の頻度は増加しないことが報告されている(文献9).では,長期追跡時の再発率はどうなのであろうか.被膜外全摘症例と被膜内全摘症例を比較した超長期追跡の結果を待ちたい.もしかすると被膜外全摘症例では「これで治癒です!」という,安全宣言が出せるフォローアップ終了時期が設定できるのかも知れない.

<コメント1>
多くの脳神経外科医が興味を持っている事案を詳細に検討した報告である.10年間再発のない症例でも,5%にその後再発を認めた事実は衝撃である.一部の癌腫のように,治療後5年再発がなければ治癒と解釈している患者に遭遇するが,NFPAにおいては,生涯にわたるフォローが必要であることを示している.しかし,NFPAでの再発は極めて緩徐で,また再発は海綿静脈洞近傍が多く,症候性となる可能性は高くない.よって,明らかな再発を認めないのであれば,MRIの撮影間隔は2〜3年に一度で十分であり,再発の疑いが認められた段階で,撮影間隔を短縮させる.そして,腫瘍の増大スピード,発生部位,患者の年齢などを総合的に判断し,追加治療(主に定位放射線)の必要性を検討するという方針で良いと思われる.長期フォローが必要な疾患であることが明らかとなったが,医療経済的な観点からも,適切な観察期間,間隔について,追試が望まれる.(鹿児島大学下垂体疾患センター 藤尾信吾)

<コメント2>
我々は,手術で全摘出しえたNFPAについて,偽被膜を全摘出した群とそうでない群を自験例で比較検討している.これによれば,5年以上のフォローアップでは偽被膜摘出群の方が再発率が低い傾向を示している.追跡期間が長くなればなるほど,偽被膜摘出の効果があらわれると想像される.今後,NFPAにおける長期成績を検討する場合は偽被膜摘出の有無を考慮する必要性があると考える.(広島大学脳神経外科 木下康之)

執筆者: 

有田和徳

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