先端巨大症の診断には経口糖負荷試験(OGTt)は不要:新しいコンセンサス基準(Stresa・2024年)の提案

公開日:

2024年4月1日  

最終更新日:

2024年4月9日

Consensus on criteria for acromegaly diagnosis and remission

Author:

Giustina A  et al.

Affiliation:

San Raffaele Vita-Salute University and IRCCS Hospital, Milan, Italy

⇒ PubMedで読む[PMID:37923946]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2024 Feb
巻数:27(1)
開始ページ:7

【背景】

先端巨大症の診断基準はこの20年間で変化を遂げてきた.2000年に発表されたコルチナ・コンセンサス基準では経口糖負荷試験における成長ホルモン(GH)底値が1 μg/L以上で,IGF-1が性・年齢標準値(+2SD)を超えたものを先端巨大症と診断している(文献1).
10年後の2010年のコンセンサス声明では,GH測定感度の向上を受けて,経口糖負荷試験におけるGH底値のカットオフは0.4 μg/L以上に変更された(文献2).
2022年,米国と欧州合わせて16ヵ国56名のエキスパート達は,イタリアの保養地ストレーザ(Stresa)で,第14回アクロメガリー・コンセンサスミーティングを開催した.

【結論】

このStresaミーティングでは,先端巨大症の診断基準,治療方法,画像所見,臨床像,病理像,寛解基準,経過観察の方法までの幅広いトピックについて,過去の報告のクリティカルレビューを行い,それに基づいた議論を行った.本稿はその報告である.
この中で注目すべきは,先端巨大症の診断基準について新たな提案を行っていることである.これによれば,典型的な症状を有する患者では,IGF-1値が,年齢が一致した健常者の標準値の上限(+2SD)の1.3倍を超えていれば先端巨大症と診断出来るとしている.IGF-1値による診断があいまいであれば,IGF-1の再測定や,経口糖負荷試験も有効かも知れないと述べている.

【評価】

これまで先端巨大症の診断には,経口糖負荷試験(OGTt)におけるGH底値が必須の条件であった.2000年のコルチナ・コンセンサス基準では1 μg/Lがカットオフ値であったが(文献1),2010年のコンセンサス声明では,GH測定法の精度向上に伴いカットオフ値は0.4 μg/Lに変更になった(文献2).2014年のEndocrine Societyのガイドラインでは,先端巨大症の診断基準は,IGF-1が年齢が一致した健常者の標準値よりも高値で,経口糖負荷試験中の成長ホルモン(GH)底値が1 μg/L(高感度成長ホルモン測定法では0.4 μg/L)以上と定義されている(文献3).また,治療による寛解はIGF-1が正常かつランダムに測定したGH値が1 μg/L未満と定義されている.
日本の難治性疾患等政策研究事業「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班の手による「間脳下垂体機能障害の診断と治療の手引き(平成30年度(2018年)改定)」によれば(文献4),先端巨大症の確実例と診断するためには,外見などの主症状に加えて,3項目の検査所見の全てを満たす必要性がある.3項目の検査所見とは,①血中GH値がブドウ糖75 g経口投与で正常域まで抑制(高感度GH測定で0.4 ng/mL未満)されない,②IGF-1が健常者の年齢・性別基準値上限(+2SD)を超える,③MRIまたはCTで下垂体腺腫の所見を認めること とされている.
しかし本論文によれば,従来,診断や寛解の判定に経口糖負荷試験を用いることへの疑問は多かったという.たとえば,先端巨大症を完全に否定し得るGH底値のカットオフがないこと,健常成人におけるGH底値が性,BMI,経口避妊薬の使用などの影響を受けること,先端巨大症患者の1/3が経口糖負荷試験によってGHレベルの上昇を示すことなどを挙げている.確かに先端巨大症の外見を呈しIGF-1が高値なのに正常GH抑制(<0.4 μg/L)を示す “Low GH acromegaly” あるいは “Micromegaly” の存在は知られている(文献5,6,7).さらに,かねてからColumbia大学のFredaらは,高感度GH測定法では健常者のGH底値は0.14 μg/L以下であると主張している(文献8).
こうした事実を受けて,このコンセンサス・プロポーザルでは,先端巨大症の診断は経口糖負荷試験なしで,IGF-1の測定のみで十分であると主張している.
一方,手術後の寛解判定に関しても,手術後12週後のIGF-1の正常化がエビデンスレベルが強いという理由から,やはり経口糖負荷試験は寛解判定基準から省かれている.
やや唐突にも思われる新規の先端巨大症の診断基準ならびに寛解基準の提案であるが,既に実際の診療現場では,薬物療法中のモニタリングではIGF-1を重視しているのは事実である.しかし,症状とIGF-1値だけで診断した時に偽陰性あるいは偽陽性となる患者がいないのかについて,この提案を行った著者らは検証はしていないようである.この症状とIGF-1のみに基づく先端巨大症の新規診断基準が広く受け入れられていくためには,感度や特異度等その診断精度の評価が不可欠であろう.

<コメント1>
本コンセンサスについて,自分もコンセンサスミーティングに参加はしていないため,その中での議論については論文以上の情報はない.ただし実際,論文内でも,IGF-Iを正常上限の1.3倍とした根拠となる論文が示されておらず,個人的には現段階ではエクスパートオピニオンの域を超えるものではないと思われる.2023年6月に開催されたPituitary Society Meetingでも,このコンセンサスについて議論されたが,現時点でこの変更に大きな反発はなく,むしろmicromegalyに対する治療介入を行いやすくする点,OGTTに対してリスクのある患者さんを含めて,検査の負担を軽減させることができる点についてのメリットが強調されていたように記憶している.しかし,この診断基準による偽陽性率と陰性的中率がどのくらいであるかは,今後明らかにすべき最も重要な課題になるのではないか.(神戸大学糖尿病・内分泌内科学 福岡 秀規)

<コメント2>
先端巨大症の病態におけるOGTTのGH底値と血中IGF-I値には異なる意味がある.GH底値の上昇は腫瘍からのGHの自律性分泌を意味するのに対して,血中IGF-I値の上昇はGH過剰分泌の程度を示す.先端巨大症の症状の多くはIGF-I値の上昇によってきたすため臨床的にはより多くの意義がある.その他に診断基準の閾値を決める際に考慮すべき点として,それぞれのアッセイ系の精度と正常値の妥当性,世界における標準化などの問題がある.最近では早期に発見される症例の増加とともに,国際的にはGH,IGF-Iアッセイ系の標準化が十分でない状況があり,いわゆるmicromegaly,low GH acromegalyの診断基準については議論が続いている.またOGTTのGH底値は生理的GHの脈動性分泌の底値と合致しているが,男女差,肥満の影響があり,その正常閾値を厳密に決めるのは容易ではない.一方でIGF-I値が偽高値になる病態は稀であることを考慮すると,ほとんどの典型的な先端巨大症の診断においては,今回のコンセンサスで示されている基準,すなわち下垂体腫瘍があり,症状が明らかで,IGF-I値 >1.3 ULN,ランダムGH値の上昇を認めればOGTTの結果がなくても臨床的には大きな問題はないと考えられる.またボーダーラインケースの診断については今回のガイドラインに記載されているようにOGTTの結果は参考になりうることと,そもそも治療が必要かどうかの判断が必要となる.その場合に,ボーダーラインケースの合併症や予後の予測と治療の必要性については,先端巨大症そのものに加えて,年齢,一般的な高血圧や糖尿病などの影響をより強く受けることから,個々の病態を考慮した総合的な判断が必要であり,一律にカットオフ値で治療の必要性を判断することは困難である.このような背景を考慮すると今回のコンセンサスは国際的かつ実践的な意味では一定の妥当性があると考えられる.
一方で日本の場合にはGH,IGF-Iアッセイ系の標準化が行われており,厳密な診断基準としては一定の根拠があり,指定難病申請のための閾値の設定が必要であるため,現行の基準は維持されるものと考えられる.(奈良県立医科大学 糖尿病・内分泌内科学 高橋裕)

執筆者: 

有田和徳