公開日:
2024年4月1日最終更新日:
2024年4月2日Prolactin-secreting tumors, dopamine agonists and pregnancy: a longitudinal experience of a tertiary neuroendocrine center
Author:
Prencipe N et al.Affiliation:
Department of Medical Science, Division of Endocrinology, Diabetes and Metabolism, University of Turin, Turin, Italyジャーナル名: | Pituitary. |
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発行年月: | 2024 Mar |
巻数: | Online ahead of print. |
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【背景】
ドパミン作動薬は胎盤を通過するため,プロラクチン産生PitNETに対するドパミン作動薬投与下での妊娠が判明した場合,投薬を中止することが推奨されている(文献1).ただし,短期間とはいえ胎児に移行したドパミン作動薬が妊娠経過や出生児の発達に悪影響を及ぼす懸念については完全払拭されているわけではない.
トリノ大学の内分泌科などのチームは,こうした問題を解明するために,ドパミン作動薬のみで妊娠に至ったプロラクチン産生PitNET43症例58妊娠を後方視的に解析した.40妊娠はカベルゴリン(CAB)投与下で,18妊娠はブロモクリプチン(BRM)投与下で達成されていた.
【結論】
診断時の腫瘍径は中央値6 mmであった.流産,早産,奇形,低APGARスコア,低出生体重,巨大児などの妊娠・出産に伴う諸問題の発生頻度はCAB群とBRM群間で差はなかった.しかし,母親へのインタビューによれば,一過性の言語獲得遅延や歩行開始の遅れなどの児の発育に関する問題(合併症)は専らCAB群だけに認められた(23 vs 0%,p =.046).
初回妊娠後の非投薬下でのプロラクチン値の正常化(寛解)は42.9%で認められ,その予測因子は妊娠前のプロラクチン値の最低値であった(p =.023).初回妊娠後の寛解率は2群間で差はなかった.母乳投与の有無あるいはその期間は寛解率に影響を与えなかった.
【評価】
プロラクチン産生PitNETを有する妊孕期女性患者では,一般に妊娠が判明した段階で,ドパミン作動薬の投与が中止される.本稿の研究対象でも,胎児の曝露期間中央値はCAB28日とBRM35日と短かった.両群における妊娠・分娩・出産の異常については,流産,早産,低体重,巨大児の頻度とも一般人口と変わらないか,低かった.また,児の奇形は両群とも1例もなかった.すなわち,過去の報告と同様に(文献2,3,4)本研究でも,ドパミン作動薬の投与が妊娠経過や新生児に与える影響は否定されたことになる.
興味深いのは,ドパミン作動薬の内服下で産まれた子どもに関する母親への電話インタビューによれば,CAB内服下で妊娠した子どもに何らかの問題(合併症)があると答えたのは40例中9例(23%)で,内訳は言語獲得遅延6例,歩行開始の遅れ1例,アトピー2例であった.いずれも軽症でかつ一過性であったというが,BRM群では,これらの問題は18例中0例(0%)であった.この違いの理由について著者らは明らかにしていない.言語獲得遅延は一般の子どもでも2-12%で認められるので,CAB内服下で妊娠した子供40例中6例(15%)というのは,有意の差ではないのかもしれない.しかし,より大きな母集団で検討されるべき懸念事項であろう.
一方,健常者でも授乳(吸啜刺激)によってプロラクチン値が上昇することは知られているが,本研究では,過去の報告と同様に(文献5)授乳が妊娠後の高プロラクチン血症の寛解率に影響を与えることはなかったという.
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Melmed S, et al. Diagnosis and treatment of hyperprolactinemia: an endocrine society clinical practice guideline. J Clin Endocrinol Metab 96:273–288, 2011
- 2) Huang W, et al. Pituitary tumors in pregnancy. Endocrinol Metab Clin North Am 48:569–581, 2019
- 3) Ruiz-Velasco V, et al. Pregnancy in hyperprolactinemic women. Fertil Steril 41:793–805, 1984
- 4) Krupp P, et al. Bromocriptine in pregnancy: safety aspects. Klin Wochenschr 65:823–827, 1987
- 5) Lebbe M, et al. Outcome of 100 pregnancies initiated under treatment with cabergoline in hyperprolactinaemic women. Clin Endocrinol (Oxf) 73:236–242, 2010
参考サマリー
- 1) プロラクチン産生下垂体腫瘍の体積-血中プロラクチン値の相関関係と手術の効果
- 2) 薬物療法に抵抗性のプロラクチン産生腺腫に対する治療選択におけるメチオニン-PET/MRIの有用性
- 3) プロラクチン産生腺腫におけるエストロゲン受容体(ERα66,ERα36)低発現は浸潤性成長と相関している
- 4) プロラクチン値による非機能性腺腫とプロラクチン産生腺腫の鑑別には,腫瘍径毎のカットオフ値が必要
- 5) アグレッシブなプロラクチン産生腺腫に対するエベロリムス:症例報告と培養系における検討
- 6) プロラクチン産生微小下垂体腺腫に対する手術療法のターゲット:外側タイプは避けたい
- 7) プロラクチン産生下垂体腺腫に対するカベルゴリンをいつやめるか?:メタ解析の結果
- 8) 原発性アルドステロン症患者にはプロラクチン産生下垂体腺腫が多いか
- 9) ErbB受容体駆動性のプロラクチン産生下垂体腺腫はラパチニブ治療に反応する
- 10) 薬物療法後で寛解が得られなかったプロラクチノーマに対する手術はどのくらい有効か?:10文献816例のメタアナリシス