残存・再発した非機能性下垂体腫瘍に対するガンマナイフの5年以上の長期効果:世界11センター360例の解析

公開日:

2024年5月23日  

最終更新日:

2024年5月24日

Long-term radiographic and endocrinological outcomes of stereotactic radiosurgery for recurrent or residual nonfunctioning pituitary adenomas

Author:

Shaaban A  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, University of Virginia, Charlottesville, Virginia, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:38518285]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2024 Mar
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

非機能性下垂体腫瘍に対するガンマナイフ治療は長期の腫瘍コントロールをもたらすことが知られているが,5年以上の長期効果に関しての多数例でのエビデンスは乏しい.本研究は,世界のガンマナイフ11センターで,非機能性下垂体腫瘍術後の残存・再発例に対してガンマナイフ治療が実施され,その後5年以上の経過観察が行われた症例の解析である.対象は治療後の腫瘍のサイズを評価した360例(年齢中央値52.7歳,52%が残存例,10.9%が再発例,追跡期間中央値7.95年)と,下垂体機能を評価した351例(年齢中央値52.5歳,追跡期間中央値8年)である.下垂体機能低下の判定は研究参加各施設毎の基準に依った.

【結論】

ガンマナイフ治療後5,8,10,15年の腫瘍制御率は93%,87%,86%,69%であった.治療後5,8,10,15年の下垂体機能温存率は83%,81%,78%,71%であった.多変量解析では,辺縁線量 >15 Gyと最終手術から治療までの期間 >1年が良好な腫瘍制御と相関していた.下垂体茎への最大線量 ≤10 Gyは下垂体機能の温存と相関していた.
新規の視機能障害は,腫瘍制御群のうち7例(1.94%)で,下垂体機能障害が認められた群のうち8例(2.3%)で認められた.他の脳神経症状の出現は腫瘍制御群160例中4例,下垂体機能障害群140例中3例と少なかった.

【評価】

本研究は,非機能性下垂体腫瘍に対するガンマナイフ治療後に5年以上追跡し得た360例(腫瘍サイズについて)あるいは351例(下垂体機能について)を対象とした後ろ向き解析である.その結果,ガンマナイフによる定位手術的照射が,照射後長期にわたって,非機能性下垂体腫瘍の良好な腫瘍コントロールと下垂体機能の温存をもたらす事を明らかにしている.こうした結果は,従来報告されていた成績と大きな違いはない(文献1,2,3).
本研究結果で注目すべき点は,ガンマナイフ治療後,腫瘍再発と下垂体機能低下の頻度は極めて徐々にではあるが増加し,15年という長期の経過観察では約30%の症例で腫瘍の増大が認められ,やはり約30%の症例で何らかの下垂体機能障害が発生したことである.ガンマナイフ治療後数年間の経過で良好な腫瘍制御と下垂体機能の温存が得られていたとしても,次の10年が約束されているわけではないことは銘記されるべきであろう.
多変量解析では,腫瘍辺縁線量 >15 Gyが良好な腫瘍コントロールと相関し,下垂体茎への最大線量 ≤10 Gyが下垂体機能の温存と相関していた.これらの閾値もまた過去の報告や推奨値とよく一致している(文献1,4,5).こうした事実は,今後のガンマナイフ治療にあたって照射計画を立てる際には重要な指標となるであろう.ただし,先行する手術における腫瘍残存が大きい場合は,これら2因子の両立が困難なことは言うまでもない.こうした事実を考慮すれば経鼻手術による腫瘍全摘出が困難な場合でも下垂体茎の周囲や下方の腫瘍部分は是非とも除去しておくべきなのかも知れない.
一方最近,下垂体腫瘍に対しても寡分割ガンマナイフ照射を行っている施設が登場しており,3分割で辺縁21 Gy,4分割で辺縁20 Gyなどという大量照射によって,5年間で97%という高い腫瘍制御率を達成していることが報告されている(文献1,4,6).今後は,寡分割ガンマナイフ照射についても,本研究と同様に10年間を超える追跡の結果が明らかになることを期待したい.

<コメント>
本論文は,非機能性下垂体腺腫の残存・再発に対する定位手術的照射の多施設共同研究の結果である.中央値7.95年の経過観察期間における腫瘍制御は5年93%,10年86%,15年69%であり,下垂体機能の温存は5年83%,10年78%,15年71%であった.腫瘍制御に有意に影響したのは術後1年より後の再発と,処方線量15Gyを越える症例であった.また,下垂体機能障害の有意の関連因子は下垂体柄への被曝線量が10Gyを越えたことであった.本研究では15年後の腫瘍制御は69%という結果であるが,自験例では,134例に対する処方線量中央値12Gyでの治療において,中央値9年の経過観察で,腫瘍制御は5年95%,10年91%,15年91%と良好であった(文献7),本論文の著者らの処方線量は我々の処方線量より高いにもかかわらず腫瘍制御が悪かったことになる.また、至適線量も、著者らは腫瘍制御には15Gyを越える線量が必要としているが、自験例では処方線量中央値12Gyでも良好な腫瘍制御が得られている(個人的には非機能性下垂体腺腫の至適処方線量は14Gyと考えている).また,同じグループからの別の報告では,腫瘍制御のための至適処方線量は14Gyを越えるとの記載があり,報告による若干の差がある(文献8).
なお,下垂体腺腫を含めた傍鞍部腫瘍に対する定位手術的照射では,視神経被曝線量の安全域は8Gyであることは広く認められている.本研究において,下垂体機能低下のリスクを避けるためには,下垂体柄の被曝線量を10Gy以下に留めるべきであることが明らかにされたことは,非常に重要である.ただし,下垂体機能低下のリスクに関して詳細な検討が行われた症例についての報告では,下垂体機能障の出現率は2年12.5%, 5年31.4%と高い(文献9),本研究では多施設共同研究ということもあり,十分な下垂体機能の評価が行われたか否かについては注意が必要である. (富永病院脳神経外科 岩井謙育)

執筆者: 

有田和徳