公開日:
2024年8月26日最終更新日:
2024年8月29日Pseudocapsular resection to prevent recurrence in nonfunctioning pituitary neuroendocrine tumors: a retrospective, single-center study with more than 5 years of follow-up
Author:
Kinoshita Y et al.Affiliation:
Department of Neurosurgery, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima, Japanジャーナル名: | J Neurosurg. |
---|---|
発行年月: | 2024 Aug |
巻数: | Online ahead of print. |
開始ページ: |
【背景】
機能性下垂体腫瘍(PitNET)に対する腫瘍偽被膜(pseudocapsule)も含めた摘出(被膜外摘出)は,高い寛解率をもたらす(文献1,2).一方で,非機能性PitNETに対する被膜外摘出は,経験を積んだ術者の手によれば,下垂体機能障害の可能性を高めないことも明らかになっている(文献3,4).しかし,非機能性PitNETに対する被膜外摘出が腫瘍の再発率を低下させるか否かについては未だ不明である.広島大学のKinoshitaらは,この点を明らかにするために,2008年以降の10年間に肉眼的全摘出を達成した非機能性PitNETのうち5年以上追跡し得た132例の後方視的解析を行った.
【結論】
132例中67例では偽被膜の完全切除が達成され(被膜完全切除群),65例では偽被膜の完全切除が達成できなかった(被膜非完全切除群).3T-MRIでの画像追跡期間は中央値96.5ヵ月(60-176ヵ月)であった.
被膜非完全切除群では,追跡期間中の再発は,海綿静脈洞内再発が2例(3.1%),下垂体窩内再発が5例(7.7%)であった.被膜完全切除群では,再発は海綿静脈洞内の2例(3.0%)のみであった.下垂体窩内の再発は被膜非完全切除群で有意に多かった(p =.0267).多変量解析では,被膜完全切除は,非機能性PitNETの全摘出後の再発を減少させる有意の因子であった(p =.0107).
【評価】
組織学的には,PitNETの約半数は圧迫され線維化した下垂体前葉組織すなわち偽被膜によって取り囲まれているが,この偽被膜内には腫瘍細胞塊(tumor cell clusters)が島状に存在することが知られている(文献5).機能性PitNETでは,この偽被膜内の腫瘍細胞塊を除去すること,すなわち偽被膜の完全切除が術後寛解率を高めることは当然である(文献1,2).一方,非機能性PitNETでもこの偽被膜内の腫瘍細胞塊を除去することが,再発を防ぐ重要な手法であることが予測はされるが,これまでその証拠は示されていなかった.
本稿は,非機能性PitNETにおいて,腫瘍偽被膜の完全除去が,術後長期にわたって腫瘍の再発を抑制する有意の因子であることを初めて証明した.既に本稿の著者らは,非機能性PitNETに対する腫瘍偽被膜の完全除去が,尿崩症や新たな下垂体前葉機能低下を含む手術後合併症の発生頻度を増加させないことを報告している(文献3,4).すなわち著者らは,一連の研究で,豊富な経験を積んだ下垂体外科医の手による腫瘍偽被膜を含む非機能性PitNETの完全摘出が,下垂体機能障害発生のリスクを高めることなく,手術後5年を超える長期にわたる追跡でも再発を低く抑えることを明らかにしたことになる.
本研究では,実際の再発は被膜完全切除群67例中2例(3.0%)で認められたが,再発部位はいずれも海綿静脈洞内であり,下垂体窩内での再発はなかった.
ガンマナイフなどの定位手術的照射(SRS)は,再発した非機能性PitNETに対する有効な治療として確立しているが(文献6,7),再発が下垂体窩内で,再発腫瘍が下垂体-下垂体茎に隣接している場合,SRS後に下垂体機能低下症を招来する可能性がある(文献8,9).一方,再発が海綿静脈洞内であれば,SRS後に下垂体機能低下症が発生する可能性は少ない.
本研究は,非機能性PitNETに対する腫瘍偽被膜を含む全摘出術でも,長期的な経過観察での再発は0%ではないが,再発したとしてもSRSが安全に実施できる海綿静脈洞内に限って再発することを示したことになる.重要な知見であり,他の下垂体腫瘍ハイボリューム・センターのデータで検証されるべきである.
<著者コメント>
筆者らはこれまで非機能性PitNETにおいて,腫瘍偽被膜を摘出しても下垂体機能を悪化させない(文献4),それは高齢者においても同様であること(文献3)を発表してきた.発表に際しては,非機能性PitNETに対して本当に腫瘍偽被膜を摘出する必要があるのかという質問を受けてきた.今回の研究はその回答として腫瘍偽被膜摘出のメリットを示したものである.
しかし,筆者らは非機能性PitNETにおいて,積極的に腫瘍偽被膜を摘出することを推奨しているわけではないことを明記したい.機能性PitNETより非機能性PitNETの手術は安全性を優先する必要があることは言うまでもなく,腫瘍偽被膜の摘出によって下垂体機能を悪化させるようなことがあれば本末転倒である.非機能性PitNETは比較的大きな腫瘍であることが多く,正常下垂体は菲薄化している.不慣れな術者の場合は腫瘍偽被膜の摘出が下垂体機能障害を引き起こすリスクもある.正常下垂体と腫瘍偽被膜の境界面を正確に見極め,安全に剥離操作できるスキルが必要とされる.(広島大学脳神経外科 木下康之)
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Kawamata T, et al. Surgical removal of growth hormone-secreting pituitary adenomas with intensive microsurgical pseudocapsule resection results in complete remission of acromegaly. Neurosurg Rev. 28(3): 201-208, 2005
- 2) Wang XB, et al. Pseudocapsule and pseudocapsule-based extracapsular resection in pituitary neuroendocrine tumors. Front Endocrinol (Lausanne) 13: 1056327, 2022
- 3) Kinoshita Y, et al. Pseudocapsular resection in elderly patients with nonfunctioning pituitary adenoma. Clin Neurol Neurosurg. 210:106997, 2021
- 4) Kinoshita Y, et al. The surgical side effects of pseudocapsular resection in nonfunctioning pituitary adenomas. World Neurosurg. 93: 430-435, 2016
- 5) Lee EJ, et al. Tumor tissue identification in the pseudocapsule of pituitary adenoma: should the pseudocapsule be removed for total resection of pituitary adenoma? Neurosurgery. 64(3 Suppl): ons62-ons70, 2009
- 6) Kotecha R, et al. Stereotactic radiosurgery for non-functioning pituitary adenomas: meta-analysis and International Stereotactic Radiosurgery Society practice opinion. Neuro Oncol. 22(3): 318-332, 2020
- 7) Sheehan J, et al. Congress of Neurological Surgeons systematic review and evidence-based guideline for the management of patients with residual or recurrent nonfunctioning pituitary adenomas. Neurosurgery. 79(4): E539-E540, 2016
- 8) Oh JW, et al. Hypopituitarism after Gamma Knife surgery for postoperative nonfunctioning pituitary adenoma. J Neurosurg. 129(Suppl 1): 47-54, 2018
- 9) Dumot C, et al. Stereotactic radiosurgery for nonfunctioning pituitary tumor: a multicenter study of new pituitary hormone deficiency. Neuro Oncol. 26(4): 715-723, 2024
参考サマリー
- 1) 非機能性下垂体腺腫における被膜外除去手術は安全か
- 2) 非機能性下垂体腺腫の術後尿崩症のリスク因子は若年者と大きな腫瘍径とトルコ鞍内に存在するT1高信号:広島大学連続333例の解析
- 3) 非機能性下垂体腺腫摘出術後の成長ホルモン分泌能回復の予測因子はなにか:連続276例の解析から
- 4) 非機能性下垂体腫瘍手術後のPFSは高齢者で長い:Mayoクリニック
- 5) 非機能性下垂体腺腫の全摘出後,どのくらい経過観察すれば治癒と判定できるのか
- 6) 非機能性微小下垂体腺腫は5年間の追跡期間で0.2%だけが視機能障害をきたす大きさになる:過去最大,419例の英国コホート
- 7) 腫瘍上下径は非機能性下垂体腺腫術後の尿崩症の予測因子である:ソウル大学の168例から
- 8) 非機能性下垂体腺腫の摘出度推定のための新しいグレーディング(TRANSSPHER Grade)の提案
- 9) ADC値の低い非機能性下垂体腺腫は再発しやすい
- 10) 非機能性下垂体腺腫における術後下垂体体積は下垂体機能の回復と相関するのか