ラトケのう胞は内容液の性状によって再発率が異なるか:大阪大学

公開日:

2024年9月15日  

最終更新日:

2024年9月25日

Appearance of fluid content in Rathke's cleft cyst is associated with clinical features and postoperative recurrence rates

Author:

Iwata T  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Osaka University Graduate School of Medicine, Suita, Osaka, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:38761321]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2024 Jun
巻数:27(3)
開始ページ:287

【背景】

症候性ラトケのう胞に対するドレナージ後の再発率は10%前後と稀ではない(文献1,2,3).再発を防ぐために,のう胞とくも膜下腔の交通,のう胞壁と蝶形骨洞粘膜の連結などの方法が提案されているが(文献4,5),それぞれにデメリットもある.初回手術時ののう胞内容液の性状によって再発しやすさが予測できれば,追加の手術手技の選択や術後追跡計画の選択に有用なはずである.大阪大学のIwataらは,自験のラトケのう胞42例を,内容液の性状によって,タイプA:膿状,タイプB:半固形の結節と混じった不透明な白い液,タイプC:透明でわずかに粘性の3群(各14例)に分けて,術前画像,臨床像,再発との関係を解析した.

【結論】

タイプCの患者は年齢が高く(平均65.4歳),タイプAは女性が多かった(92.9%).
MRI上の特徴はタイプA:のう胞壁の造影,タイプB:のう胞内結節,タイプC:T1低信号かつT2高信号で大きなのう胞,であった.
手術前の下垂体機能低下症はタイプAで多かった(71.4%).
手術方法は,のう胞内容除去のみが18例,のう胞内容除去後にのう胞のくも膜下腔側への開放を行った症例が24例であった.
手術後2年以内に内容液の再貯留のために再手術が必要となった早期再発はタイプAの3例とタイプCの1例で認められた.
タイプAとCにはのう胞腔のくも膜下腔側への開放を考慮すべき症例が含まれていると思われた.

【評価】

本研究は初回手術時の内容液の性状によって,ラトケのう胞を3つのタイプに分けて,それぞれの臨床像,MRI像,術後経過の特徴を解析したものである.下垂体外科医にとって最も知りたいのは,ラトケのう胞の手術後にどのタイプが再発しやすいのか,またその結果を基にして,下垂体外科医は手術中に何をすべきなのかである.
本稿によれば,手術後2年以内の早期再発は,全体で9.5%(4/42)と稀ではあったが,膿汁様の内容液で術前のMRIでのう胞壁が造影されるタイプAは早期再発が21.4%(3/14)と相対的に高かった.また,このタイプAは女性に多く,下垂体機能の障害率が高かった.
著者らは本研究の結果,ラトケのう胞の臨床的特徴と手術後の経過はのう胞内容の性状に依存すると述べている.
シンプルな結論ではあるが,そう言われてみればそうかもという下垂体外科医はいるかも知れない.ただし,タイプAに対するのう胞腔とくも膜下腔との交通が本当に有効であるのかは,前向き研究で検討されなければならないであろう.漿液性の内容液であるタイプCでも7.4%(1/14)に早期再発が見られたが,のう胞内結節(いわゆるwaxy noduleか?)を伴う白色の混濁液のタイプBでは早期再発は認められなかったという.症例数が少ないので,現段階で,タイプBのラトケのう胞が本当に“おとなしい”かどうかは断定できないように思われる.
他のラージボリュームセンターでの追試が必要である.
さらに,のう胞内容液の性質や再発率の違いを生み出す組織学的な背景についても(文献4,5)検討されなければならない.

<著者コメント>
視交叉を圧排するトルコ鞍部嚢胞性病変の手術中の嚢胞壁を切開し内容液が流れ出てくる場面,術者は無事嚢胞に到達し,減圧という最低限の仕事は出来そうだとホッとする一方で,目に映る液の性状,モーターオイル?,膿?によって,次に何をすべきかを考える.この論文は,そのような場面で我々が議論してきた内容をまとめたものである.エビデンスに繋がる結果は乏しく,再検討を要する事項が多いのはご指摘の通りだが,臨床現場ではこのような経験談も大切で,術中にあんな話もあったなと参考にしてもらえれば幸いである.ラトケ嚢胞のタイプによって治療戦略を変える,しかも内容液の性状から直感的に,というのが本論文の主旨である.
ただ,この論文が完成した後に,嚢胞内溶液が白く粘調なので,「これはラトケだ」と断言したものの,後の病理診断がBRAF陽性で頭蓋咽頭腫だった例を経験した.内容液は本論文でのタイプAに近かったが,男性で下垂体機能は正常と非典型例だった.客観的にはおかしいところはあったのに,経験則に当てはめてしまったのである.若手の先生方には,先輩の経験談にはしっかり耳を傾けながらも(聞いてあげて下さい),一方でそれを疑い,矛盾点があれば科学的に検証して新たな知見を見出すという姿勢で,先輩と付き合いながら日々の臨床,研究に励んでほしい.(大阪大学脳神経外科 押野悟)

執筆者: 

有田和徳