特発性低髄液圧性頭痛(SIH)に対するリークポイントをチェックしないブラインド腰椎硬膜外パッチ(EBP)の有効性

公開日:

2019年8月16日  

最終更新日:

2021年6月7日

Lumbar epidural blood patch: effectiveness on orthostatic headache and MRI predictive factors in 101 consecutive patients affected by spontaneous intracranial hypotension.

Author:

Levi V  et al.

Affiliation:

Functional Neurosurgery Unit, Neuroalgology Unit, Fondazione IRCCS Istituto Neurologico Carlo Besta, Milan, Italy

⇒ PubMedで読む[PMID:30738382]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2019 Feb
巻数:[Epub ahead of print]
開始ページ:

【背景】

低髄液圧性頭痛は脳脊髄液の減少が原因で,外傷や医原性など原因が明らかなもの以外に,特発性=自発性(SIH)も多い.保存的治療に抵抗する症例に対しては硬膜外血液パッチ(EBP)が行われる.種々の検査を駆使して瘻孔部位を見つけて,その部位でEBP(Targeted EBP)を行うのがいいか,それをスキップして一律の腰椎EBP(blind EBP)で良いのかは議論が分かれている.本研究は,自発性低髄液圧症(SIH)に対するblind EBP(自己血5 ml+フィブリン糊2 ml+造影剤3 ml)の効果と,効果を予測するMRI所見を求めたものである.

【結論】

対象はSIHの連続101例で,140回の腰椎EBPが施行された.ベースラインVASは8.7 ± 1.3で,初回EBP施行後のVASは3.5 ± 2.2(p<0.001).6ヵ月目の治療反応率は68.3%(VAS2.5 ± 2.4,p<0.001).32人(31.7%)には症状再発が認められたので,2回目のEBPが実施された.最終追跡時点(中央値60ヵ月)での治療反応率は89.1%(VAS 2.7 ± 2.3, p<0.001).MRI所見上の効果予測因子は中脳水道入口部の天幕切痕から2 mm以上の下降と橋中脳角の鋭角化(<40°)であった.

【評価】

低髄液圧性頭痛は脳脊髄液の減少が原因で,人口10万人あたり5人の発生数とされる.安静,カフェイン,輸液などの内科的治療が不首尾に終われば,通常EBP(epidural blood patch)が行われる.
本論文の著者であるミラノのLevi等は,2010年以降,低髄液圧性頭痛の多くは,髄液腔と硬膜周囲の静脈叢の圧格差の異常(静脈叢側が異常に低くなっている)を背景として,脊髄硬膜全体からか,あるいは硬膜の薄い部分での髄液-静脈瘻を通したCSF “steal”が原因であるとの仮説を提案している(文献1).彼らはこの仮説に基づいて,SIH患者に対する侵襲的な検査を含めた髄液漏出点の検索を一切やめて,一律に腰椎(L3–4)EBPを行っている.
これは,硬膜外スペースに濃厚複合カクテル(自己血5 ml+フィブリン糊2 ml+造影剤3 ml)を注入して硬膜外静脈叢を“硬化”させることによって,髄液腔と硬膜静脈叢の圧格差を逆転(静脈叢側を上げる)させることを目標にしたものである.
確かに,SIH患者の髄液漏出点の検出は決して容易ではなく,放射線同位元素(RI)を用いたり,硬膜穿刺が必要という侵襲性も伴う.また,頸椎,胸椎レベルでのEBPには少なくないリスクが伴う.本シリーズではSIH患者に対するblind EBPは約9割の患者で効果をもたらし,VASは8.7から2.7に低下した.治療前のMRIでは,硬膜造影/肥厚,脳硬膜下腔液体貯留,小脳扁桃の下降,ガレン静脈-直静脈洞角の鋭角化,中脳水道(iter)の下降,橋-中脳角の鋭角化が認められたが,効果を予測出来た所見は中脳水道(iter)入口部の小脳天幕切痕から2 mm以上の下降と橋-中脳角の鋭角化(<40°)であった.
Ferrante Eらも,42例の起立性頭痛患者に対するblind EBPによって,90%の患者で完全寛解が得られたことを報告している(2010年,文献2).これらのblind EBPの効果は,targeted EBPの36~87%の奏功率に匹敵するという.
著者らの結果を信じるなら,SIHの患者,特にMRIで中脳水道の下降と橋中脳角の鋭角化が認められる症例では,髄液漏出点を検索することなしに,とりあえず腰椎EBPを行うというのが実用的な選択になるのかも知れないが,やはりblind EBPとtargeted EBPの直接比較のRCTが欲しい.
一方何故,自己血だけでなく,フィブリン糊を含んだ濃厚複合カクテルでなければならないのか,少なくとも本論文にはその理由は記載されていない.

執筆者: 

川原隆   

監修者: 

有田和徳