覚醒下随意運動モニタリングと経皮質MEPを用いて中心前回に存在するグリオーマの摘出率93%を達成:東京女子医科大学

公開日:

2019年5月12日  

最終更新日:

2021年6月1日

Awake craniotomy with transcortical motor evoked potential monitoring for resection of gliomas in the precentral gyrus: utility for predicting motor function.

Author:

Saito T  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery; Faculty of Advanced Techno-Surgery; and Central Clinical Laboratory, Tokyo Women’s Medical University, Tokyo, Japan 

⇒ PubMedで読む[PMID:30875689]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2019 Mar
巻数:[Epub ahead of print]
開始ページ:

【背景】

東京女子医科大学のSaitoらは従来から,中心前回のグリオーマの摘出においては覚醒下手術で,脳機能マッピング,術中随意運動モニタリング(IVM),経皮質誘発電位(MEP)を駆使して,安全でかつ最大限の摘出を目指してきた.本稿は2000~2018年の30例(grade I~II:20例,grade III~IV:10例)についての手術成績の検討である.腫瘍体積の70%以上が中心前回内に存在するものを中心前回グリオーマと定義した.摘出率はgrade IVでは造影部分の体積で,grade I~IIIではT2高信号部分の体積で評価した.

【結論】

腫瘍摘出率平均値は93%(75~100%)であった.手術後6ヵ月目の運動機能は,手術前に比べて不変20例,軽微な低下7例,中等度低下2例,重篤な低下1例であった.単変量解析で,手術後6ヵ月目の運動機能は,IVMと最も良く相関し(p=.0096),その他,MEPの振幅(低下が≦50% or >50%),摘出度,術後MRIでの虚血巣の出現が相関した.手術後6ヵ月の運動機能の低下症例は,IVM低下でかつMEP振幅低下≦50%では18%(2/11)で,IVM低下でかつMEP振幅低下>50%では73%(8/11)であった.中等度あるいは重篤な運動機能障害の3例はいずれも術中MEP振幅が100 µV以下であった.

【評価】

低悪性度でも,高悪性度でも,グリオーマでは摘出率が治療成績と相関することは確立された事実である(文献1,2,3).本論文は,長年,いわゆるeloquent areaのグリオーマに対して種々の電気生理学的モニタリング,術中画像モニタリングを駆使して,安全かつ最大限の切除を目指してきた著者らの(文献4,5),中心前回に主座をもつグリオーマに対する摘出術の後方視的な解析である.その結果,平均93%の摘出率を達成しながら,手術後6ヵ月目の重篤な運動機能障害は僅か3%と極めて優れた成績を示している.著者等は,この経験を元に,中心前回のグリオーマでも覚醒下手術で術中随意運動モニタリング,MEPモニタリングの下に摘出術を行えば,許容し得る運動機能障害で最大限の腫瘍摘出が可能であると結論している.
この論文のポイントは,MEPに加えて術中随意運動モニタリング(覚醒下手術が前提)が必要かという一点に絞られる.これは,手術中にここまでは大丈夫という判断ができるのは,手術中のMEPの振幅低下が軽度(50%以下)か,手術中の随意運動が保たれていることなのかという比較にかかっている.この両者の陰性予測値はどちらが高いかと言い換えることもできるが,この研究ではMEPの振幅低下50%以下の陰性予測値が83%(13/15)で,手術中の随意運動の維持の陰性予測値が100%(6/6)であった.すなわち,MEPの振幅低下50%以下でも手術後6ヵ月目の運動機能の低下は17%(2/15)のリスクで起こりえるが,術中随意運動が保たれていれば,手術後6ヵ月目の運動機能低下は0%ということである.
一方,術中MEPモニタリングが,最短30秒おきにモニタリングできるのに対して,術中随意運動モニタリングは10分おきであるので,随意運動機能の低下から発見までに最大10分遅れるリスクがある.したがって,この二つのモニタリングは相補的であると著者らは結論している.
ただし,この研究の対象は30例で,特に術中MEPモニタリングで50%以上の低下が認められながら,術中随意運動の低下がなかった症例は2例(ともに術後6ヵ月で運動機能が維持されていた)に過ぎず,まだ結論を得るには少ないように思う.著者らが言うように多施設,前向き研究が必要であろう.
もう一点,本研究の重要な発見は,手術後6ヵ月目に中等度あるいは重度の運動障害を呈した3症例では手術中のMEPの振幅が100 μV以下になったということであり,術中MEPモニタリングにおけるこの閾値の重要性が改めて示されている(文献4,5).

執筆者: 

菅田淳   

監修者: 

有田和徳