公開日:
2025年5月14日Dural Tenting in Elective Craniotomies: A Randomized Clinical Trial
Author:
Przepiorka L et al.Affiliation:
Department of Neurosurgery, Medical University of Warsaw, Warsaw, Polandジャーナル名: | Neurosurgery. |
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発行年月: | 2025 Online ahead of print. |
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【背景】
硬膜つり上げは開頭手術終了時のルーチンとして広く普及しているが,これが本当に手術後の硬膜外血腫を予防するというエビデンスは乏しい.本稿はポーランド国内5施設で実施したRCTである.対象は2018年から3年間に天幕上病変に対して予定の開頭手術が行われた490例で,手術終了時に硬膜つり上げを行わない(介入群)238例,少なくとも3本の硬膜つり上げを行う(対照群)252例に無作為に割り当てられた.2群間では性・年齢・疾患の種類・病変側・併存症に差はなかった.
【結論】
主要評価項目の術後硬膜外血腫による再開頭手術の頻度は,介入群は対照群と比較して非劣性であった(ITT解析:0.8% vs 0.4%,p =.98).per-protocol解析やas treated解析でも主要評価項目の発生率に差はなかった(いずれもp >.99).
また,以下の副次評価項目にも有意差はなかった:術後30日間の死亡率(0.8% vs 1.2%,p >.99),術後30日間の再入院率(1.7% vs 4.4%,p =.99),新たな神経障害または既存障害の悪化(19.7% vs 15.5%,p =.81),髄液漏(1.3% vs 4.4%,p >.99),術後の頭痛の悪化(4.4% vs 2.4%,p =.85),硬膜外液貯留の厚さ3 mm以上(90.8% vs 87.3%,p =.81),正中偏位5 mm以上(7.6% vs 4.8%,p =.791).
【評価】
Walter Dandyによって80年前に紹介されて以降(文献1),術野あるいは術野外の術後硬膜外血腫を予防する目的での開頭手術終了時の硬膜つり上げ(dural tenting)は,一種のルーチンとして世界中で実施されている.しかしその根拠は乏しく,この処置が不要であるとの報告も登場してきたが(文献2-5),これまでにRCTの結果を基にした主張はない.本研究はポーランドで実施された世界で初めてのRCTで,手術終了時に硬膜つり上げを行わない(介入群)238例と,少なくとも3本の硬膜つり上げを行う(対照群)252例を比較したものである.その結果,本研究は,小脳天幕上の予定の開頭手術症例において,術後硬膜外血腫による再開頭手術のリスクに関して,予防的な硬膜つり上げの省略(介入群)が非劣性であることを示した.術後30日間の死亡率,術後30日間の再入院率,新たな神経障害または既存障害の悪化などの2次評価項目も2群間で差はなかった.髄液漏や硬膜外血腫以外の有害事象も,介入群で17例,対照群で19例で差がなかった(ITT解析:7.1% vs 7.5%).
開頭手術終了時の硬膜つり上げを当然のこととして実施してきた世代にとって,硬膜つり上げをやらないのは何となく不安であったが,このRCTの結果が出たことで,硬膜つり上げをやらない大義名分ができたことになり,手術・麻酔時間の短縮,医療材料費の削減につながる.ただし抗血栓剤内服中の症例,大きな内減圧が行われ硬膜下腔に大きなスペースができた症例,重症頭部外傷例でも硬膜つり上げは要らないのか? 今後はそのようなハイリスク群を含めたRCTも必要であろう.
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Dandy WE. Surgery of the Brain. Prior: 1945
- 2) Przepiórka Ł, et al. Necessity of dural tenting sutures in modern neurosurgery: protocol for a systematic review. BMJ Open. 9(2):e027904, 2019
- 3) Swayne OBC, et al. The hitch stitch: an obsolete neuro-surgical technique? Br J Neurosurg. 16(6):541-544, 2002
- 4) Winston KR. Efficacy of dural tenting sutures. J Neurosurg. 91(2):180-184, 1999
- 5) Winston KR. Dural tenting sutures in pediatric neurosurgery. Pediatr Neurosurg. 28(5):230-235, 1998
参考サマリー
- 1) 外傷性硬膜下血腫の存在は GCS スコアより強力な予後予測因子である
- 2) 外減圧にはKempeの頭皮切開が良いかも:50年目のrevival
- 3) 慢性硬膜下血腫に対するNBCA+5%デキストロース液プッシュ法を用いた中硬膜動脈塞栓術
- 4) 米国におけるパートナー間/家庭内暴力(IPV/DV)関連の外傷性脳損傷の実態:米国外傷データバンク(2018-2021)
- 5) 慢性硬膜下血腫に対する中硬膜動脈の塞栓術:システマティックレビュー
- 6) 慢性硬膜下血腫に対する中硬膜動脈塞栓術:9報告1,523例のメタアナリシス
- 7) いっそのこと,慢性硬膜下血腫には最初から手術と中硬膜動脈塞栓術の両方をやってしまえばどうか
- 8) 頭部外傷後の外減圧症例では頭蓋形成をいつ行うべきか:欧州外傷性脳損傷登録から
- 9) 米国における開頭手術関連の医療過誤訴訟のトレンド:判決額中央値は約4億円で最高額は約42億円
- 10) 外減圧後の頭蓋形成術の至適タイミングはいつか?:あまり待たん方が良いかも