慢性閉塞性水頭症に対する第3脳室底開窓術が認知機能と歩行に与える影響:カルガリー大学の90例

公開日:

2026年11月4日  

最終更新日:

2026年11月5日

Effectiveness of endoscopic third ventriculostomy in improving cognition and gait in adults with chronic obstructive hydrocephalus: a cohort study

Author:

Veilleux C  et al.

Affiliation:

Department of Clinical Neurosciences, University of Calgary, Alberta, Canada

⇒ PubMedで読む[PMID:42789998]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2026 Sep
巻数:Online ahead of print
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【背景】

成人の慢性閉塞性水頭症(COH)では頭蓋内圧亢進症状の他,認知機能低下や歩行障害を呈することが多い(文献1).内視鏡的第三脳室底開窓術(ETV)はCOHに対する有効な治療法であるが(文献2),認知機能や歩行能力の改善に関するエビデンスは限られていた.
本研究はCOHに対するETV後の機能的転帰を定量的に評価したものである.
対象は,カルガリー大学で2015-2022年に初回ETVを受けた成人COH患者90例(平均年齢55.4歳).中脳水道狭窄を主体とする先天性水頭症が91.1%を占めた.頭蓋内圧亢進症状を呈した症例は除外された.認知機能はモントリオール認知評価法(MoCA)とSDMTで,歩行機能は10 m歩行試験で評価した.

【結論】

MoCAは術前の23.1点から術後3ヵ月25.7点,12ヵ月25.8点へ有意に改善した(p <0.001).SDMTも術前33.1点から3ヵ月37.4点,12ヵ月38.6点へ改善した.これらの変化は臨床的に意味のある最小変化量(MCID)に達していた.歩行速度は術前1.17 m/秒から12ヵ月1.42 m/秒へ増加し,年齢調整後の推定改善量は0.29 m/秒であった(p <0.001).認知機能,歩行機能とも改善の大部分は術後3ヵ月以内に認められ,その効果は12ヵ月まで維持された.65歳以上では術前の認知機能と歩行速度が若年群より低かったが,術後の改善度に有意な年齢差はなかった.

【評価】

本研究の最大の意義は,従来「再手術を要しないこと」を中心に評価されてきたETVの成功を,認知機能と歩行能力という患者の日常生活に直結する指標で定量的に示した点にある.既報の前向き研究でも認知機能の改善が報告されているが,評価方法は統一されていなかった(文献3,4).MoCAの改善量はMCIDとされる約2~2.5点に相当し,単なる統計学的有意差ではなく臨床的意味を有すると考えられる(文献5).また,転倒リスクや生活自立度の観点からも重要視されている歩行速度の改善も有意であった(文献6).著者らは,適切に選択された成人COH患者に対するETVは,認知機能と歩行を臨床的に有意に改善し,その効果が少なくとも1年間持続する有効な治療法であると結論している.
一方,本研究は単施設・単一術者による非対照研究であり,プラセボ効果,学習効果や自然経過の影響を完全には除外できない.さらに,対象の91%がそれまでに診断されていなかった先天性水頭症であり,頭蓋内圧亢進症状を呈した症例やETV不成功例(4例)は解析対象から除外されているため,本研究結果をすべての成人COH患者に一般化することはできないように思われる.著者らも,今後,MoCA,SDMT,歩行速度などの標準化された客観的指標による多施設研究が必要であると指摘している.さらには高齢者や長期罹患例における認知・歩行機能の改善予測因子,画像所見との関連,5年以上の持続効果を明らかにすることも重要と思われる.

執筆者: 

有田和徳