急性期脳梗塞に対する血栓除去におけるADAPTがステントリトリーバーに対して非劣性を証明:COMPASS研究

公開日:

2019年3月11日  

最終更新日:

2022年10月20日

Aspiration thrombectomy versus stent retriever thrombectomy as first-line approach for large vessel occlusion (COMPASS): a multicentre, randomised, open label, blinded outcome, non-inferiority trial.

Author:

Turk AS III  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Greenville Health System, Greenville, SC, USA

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ジャーナル名:Lancet.
発行年月:2019 Mar
巻数:393(10175)
開始ページ:998

【背景】

2015年以降に発表された7つのRCTのメタ解析であるHERMES第2解析でも,幅広い重症度かつ種々の画像所見を示す急性期脳梗塞患者に対して,血管内血栓除去療法(EVT)が有用であることを確認している(文献1).これらのRCTでは専らステント型リトリーバー(SR)を用いているが,Turkらによって開発されたADAPT(直接吸引First-Pass Technique)も優れた臨床成績を示してきた(文献2).本RCTは,北米15施設で実施されたADAPT対SRの非劣性検定試験である.対象は発症後6時間以内の前方循環系閉塞でASPECT6点以上の270例(ADAPT:134例,SR:136例).

【結論】

評価は中央判定によった.主要評価項目である90日目での機能的自立(mRS 0~2)は,ADAPT群52%,SR群50%であり,SRと比較してADAPTが劣っていないことを示した(非劣性p=0.0014).最終解析での有効血流再開(TICI 2b以上)は,ADAPT群92%,SR群89%(p=0.54),完全再灌流(TICI 3)は,ADAPT群38%,SR群29%(p=0.15)であった.頭蓋内出血の発生はADAPT群36%,SR群34%で,3ヵ月目の死亡は両群とも22%であった.血栓除去装置関連の費用はADAPT群の方がSR群に比較して$ 4,541低かった.

【評価】

本RCTで使用されているpenumbraシステムは,もともと比較的大きな口径のカテーテル(Reperfusion Catheter)を血栓まで誘導し,その中を通して血栓まで到達させたセパレーターで血栓を破砕しながらポンプに接続して吸引除去するものであった.これに対してADAPTはセパレーターを用いることなしに,直接的に血栓に吸引カテーテルを接触させて吸引回収する方法である.最近,吸引・誘導性能が向上したACEシリーズ(本邦では2014年10月からACE60:内腔0.060 inch,2017年9月からACE68:0.068 inch)が使用可能となったことでADAPTによる血栓の吸引回収効果が高められた.
SRに対するADAPTの非劣性について,まずフランス・ベルサイユ大学のLapergue Bらはフランスの脳卒中センター8施設で実施されたRCT(ASTER:本邦未導入のACE64を使用)の結果を公表しており,その中で,再開通率(TICI 2b以上)はADAPT群(164例)の85.4%に対し,SR群(157例)83.1%(p=0.53)で差がなく,24時間後のNIHSS,90日後のmRSスコア,そして有害事象も両群間で差を認めなかったことを報告している(文献3).本論文は2018年に国際脳卒中会議(LA,USA)で発表された内容で,さらに大口径のACE68が主に使用されたADAPTに関する論文であり,ASTERよりもさらに開通率が高くなっていた.今回,SRに対するADAPTの非劣性が再び明瞭に示されたことで,2019年現在,"ステント型リトリーバーによる"と明記されている急性期血栓除去治療に関する日米のガイドラインが変更される可能性が出てきた.
ステント型リトリーバーによる血栓除去にこだわっているエキスパート達もいるが,今後,双方の利点,欠点を活かした使いわけが普及してくるであろう.
ちなみにADAPTはa direct aspiration first pass technique(初回挿入直接吸引と訳すべきか)の略であるが,DAPT(double antiplatelet therapy)と紛らわしいので注意を要する.

執筆者: 

坂本繁幸   

監修者: 

有田和徳