脳梗塞二次予防におけるプラスグレルはクロピドグレルに対して非劣性を示せず:本邦におけるRCT(PRASTRO-I)の結果と今後

公開日:

2019年5月12日  

最終更新日:

2021年6月1日

Comparison of prasugrel and clopidogrel in patients with non-cardioembolic ischaemic stroke: a phase 3, randomised, non-inferiority trial (PRASTRO-I).

Author:

Ogawa A  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Iwate Medical University, Iwate, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:30784555]

ジャーナル名:Lancet Neurol.
発行年月:2019 Mar
巻数:18(3)
開始ページ:238

【背景】

チクロピジンやクロピドグレルと同じくチエノピリジン系抗血小板剤に分類されるプラスグレルはクロピドグレルよりも作用発現が早く,また日本人に多いCYP2C19の機能喪失型変異の影響が少ない第3世代チエノピリジン系薬剤に位置づけられ,アテローム血栓性脳梗塞の2次予防効果が期待されている.PRASTRO-I試験は本邦224施設で実施された非心原性脳梗塞患者を対象としたプラスグレル(3.75 mg/day)の効果と安全性に関する非劣性RCTである.対照はクロピドグレル(75 mg/day).一次エンドポイントは複合脳心血管イベント(虚血性脳梗塞+心筋梗塞+心血管死).プラスグレル群:1,885例,クロピドグレル群:1,862例.

【結論】

96~104週の観察期間内にプラスグレル群では73例(4%)が,クロピドグレル群では69例(4%)が一次エンドポイントに達した(RR 1.05,95% CI 0.76~1.44).95% CIの上限値(1.44)が,予め設定していたマージン(1.35)を超えていたので,プラスグレルのクロピドグレルに対する非劣性は証明されなかった.
重大な(life-threatening)出血はプラスグレル群では18例(1%),クロピドグレル群では23例(1%)に認められた(RR 0.77,0.41~1.42).

【評価】

本治験で設定された非劣性マージンは1.35である.これについては過去に日本で実施された脳卒中二次予防に関するRCTの結果,脳梗塞+脳心血管関連死亡の頻度が,アスピリン群で5.4%/年(文献1),クロピドグレル群で4%(文献2)と推定されることを背景に,クロピドグレル群に対するアスピリン群の相対リスク(RR)を1.35(5.4%/4%)と算出した.プラスグレル投与がこのRRを超えないことを予想して,非劣性マージン1.35が設定されたと本研究デザインに関する論文に記載されている(文献3).
本研究で,95%信頼区間上限値が非劣性マージンを超えた理由として,①対象の非心原性脳梗塞患者のうちに約4割ふくまれていた“原因不明”患者群と,②クロピドグレル投与既往群での一次エンドポイントの発生がプラスグレル群で高かったことなどが推測されている.原因不明(cryptogenic)の脳梗塞のかなりの割合に右左シャント(卵円孔開存)が認められており,塞栓性の脳梗塞発生機序の関与が推定されている(文献4).確かに,本研究の対象患者のうち大血管のアテローム硬化患者と小血管閉塞患者のみ(2,275例)に限定すれば,RRは0.81,95% CI:0.53~1.22と非劣性が示されている.
この結果(概要は2017年3月のSTROKE 2017で発表)を受けて,同じくプラスグレル vs. クロピドグレルの二重盲検RCTであるPRASTRO-IIIが2018年10月から開始されている.このRCTでは,病形が大血管のアテローム硬化または小血管閉塞のみの脳梗塞患者に限定され,さらに高血圧,糖尿病,慢性腎臓病,脂質代謝異常症などのリスク因子を1個以上有する患者が対象となっている(文献5).投与期間は24~48週であり,早ければ2~3年中にもその結果が得られる可能性がある.背水の研究計画であり,その結果が楽しみである.

執筆者: 

田中俊一   

監修者: 

有田和徳