頭部放射線照射後に発生した脳海綿状血管腫をどうすべきか:12文献113例のシステマティックレビュー

公開日:

2022年3月22日  

Natural history and treatment options of radiation-induced brain cavernomas: a systematic review

Author:

Patet G  et al.

Affiliation:

Department of Clinical Neurosciences, Division of Neurosurgery, Geneva University Hospitals, Suisse, Switzerland

⇒ PubMedで読む[PMID:34218360]

ジャーナル名:Neurosurg Rev.
発行年月:2022 Feb
巻数:45(1)
開始ページ:243

【背景】

小児期の頭部への放射線照射後長期間経過した患者に脳海綿状血管腫が出現することは稀ではないが,その病態,適切な治療方法は必ずしも明らかではない.ジュネーブ大学のPatetらは放射線誘発海綿状血管腫の治療について記載された過去の報告からPRISMAガイドラインに基づいて12文献を抽出し,113小児例(男児61例)のシステマティックレビューを行った.頭部照射時の平均年齢は7.3歳で,放射線治療の対象となった脳腫瘍は髄芽腫43例,急性リンパ性白血病16例,上衣腫10例などであった.平均照射線量は50 Gy.化学療法は44例で実施されていた.

【結論】

照射後,海綿状血管腫が出現するまでに平均9.2年が経過しており,患者平均年齢は16.5歳となっていた.海綿状血管腫の発生部位は前頭葉40例,側頭葉39例などであった.患者一人当たりの海綿状血管腫の頻度は2.6個であった.診断時症状は無症候性76例,局所神経症状12例,けいれん10例であった.画像上,全体の約75%では出血を伴わず,24例は出血を伴った.86例は経過観察され,27例は摘出手術を受けた.2例の死亡例(経過観察で1例,手術で1例)を除いて何れの群も臨床転帰は良好であった.海綿状血管腫のサイズの変化は25例で記載され,縮小が7例,不変が6例,増大が12例であった.

【評価】

過去の報告によれば,一般に脳海綿状血管腫の発生率は0.02~0.53%で,このうち症候性出血の発生率は年間0.25~3.1%とされている(文献1,2).一方,頭部照射例ではその発生リスクは約6倍で(文献3,4),出血リスクも高く,特に小児例では年間4~23%に達するという報告がある(文献5).頭部放射線照射後に海綿状血管腫が発生する頻度については観察期間中央値37ヵ月で3.4%(文献3)や,観察期間10年で2.9%との報告がある(文献6).一方,髄芽腫に対する頭部放射線照射後10年間で,海綿状血管腫の発生頻度が43%という報告もされているが(文献2),こちらは磁化率強調(SWI)MRI上での頻度であり,過剰評価になっている可能性がある.MRI画像診断に基づく放射線照射後の海綿状血管腫の発生頻度は,撮像法(T2,T2*,SWIなど)によって,大きく異なると思われる.
放射線誘発海綿状血管腫のリスク因子としては若年,高線量,化学療法剤(メソトレキセート)の使用が報告されている(文献7,8).
治療に関しては,本レビューでは約75%の症例が経過観察され,これらの症例では臨床転帰は良好で,1例のみが死亡であった.しかし,症候性出血例や微小出血を繰り返す症例は,手術が選択された残り25%に入っている可能性が高く,注意が必要である.
本稿は,頭部放射線照射後に発生した脳海綿状血管腫の病像をある程度描き出してはいるが,その発生頻度とリスク因子,症候性出血の頻度とリスク因子,手術適応,定位放射線照射の役割等,まだ不明な点が多い.今後の多施設前向き研究が望まれる.

執筆者: 

有田和徳