血管内血栓回収治療中の抗血小板,抗凝固療法は症候性頭蓋内出血を増やし,機能予後を悪化させる:MR CLEAN-MED試験

公開日:

2022年3月22日  

最終更新日:

2022年3月23日

Safety and efficacy of aspirin, unfractionated heparin, both, or neither during endovascular stroke treatment (MR CLEAN-MED): an open-label, multicentre, randomised controlled trial

Author:

van der Steen W  et al.

Affiliation:

Department of Neurology, Erasmus University Medical Center, Rotterdam, Netherlands

⇒ PubMedで読む[PMID:35240044]

ジャーナル名:Lancet.
発行年月:2022 Mar
巻数:399(10329)
開始ページ:1059

【背景】

血栓回収治療中の抗血小板/抗凝固療法は微小循環改善や末梢血管の血栓性合併症予防の目的で用いられることがあるが(文献1,2,3),RCTによる裏付けはない.
本研究はオランダ国15施設で行われたオープンラベルRCTである.割り当て薬はアスピリン(300 mgボーラス)と未分画ヘパリン(5,000単位ボーラス+500単位/hか1,250単位/hを6時間持続).血栓回収術を受ける663例を6群(非投与,アスピリンのみ,低用量ヘパリンのみ,アスピリン+低用量ヘパリン,中用量ヘパリン,アスピリン+中用量ヘパリン投与)に割り付けた.74%に経静脈的血栓溶解療法が行われた.鼠径部穿刺後に割り付け薬の投与が開始された.

【結論】

一次アウトカムは発症90日後のmRSとした.目標症例数は1,500例であったが治験管理委員会は中間解析の結果,安全性の理由により,2021年2月,登録数663例の段階で本試験を中止した.
登録663例のITT解析では,症候性頭蓋内出血の頻度はアスピリン投与群では非アスピリン群より有意に高く(14 vs 7%,調整オッズ比1.95),ヘパリン投与群でも非ヘパリン群より有意に高かった(13 vs 7%,調整オッズ比1.95).90日後mRSは,アスピリン群でもヘパリン群でも,非投与群よりも悪い方にシフトする傾向であった(調整共通オッズ比0.91と0.81).

【評価】

大規模RCTによって脳主幹動脈閉塞に対する血栓回収治療に関する質の高いエビデンスを次々に打ち立てているオランダ国のMR CLEANであるが,今回は血栓回収治療中の抗血栓剤(アスピリンや未分画ヘパリン)投与のベネフィットを明確に否定したことになる.
低分子ヘパリンに関しては24時間での完全再開通率が投与群で高かったが(89 vs 82%,オッズ比1.89,CI:1.16~3.09),90日目のmRS0-2は投与群の方が低く(46 vs 55%,オッズ比0.78,CI:0.54~1.13),完全再開通のベネフィットが症候性頭蓋内出血のリスクを上回らなかったことになる.
今後,より少量のヘパリン投与量ではどうかなど,検討の余地があるかも知れないが,新たに高いレベルのエビデンスが出てくるまでは血栓回収治療中の抗血栓剤の投与は避けた方が良さそうである.
一方,tPAを投与しなかった症例でもヘパリンを含む抗血栓剤は禁忌なのであろうか.今後の解析結果が待たれる.ちなみに血管内治療に用いる加圧潅流バッグ中にもヘパリンは含まれるが,こちらから体内に入るヘパリンの総量はせいぜい2,000単位くらいと目される.

<再開通後の出血を予防するために,血栓溶解+抗血栓療法は避けなければならない>
tPA添付文書でも静注血栓溶解療法適正治療指針の第三版においてもtPA使用後24時間以内の抗血栓療法は症候性頭蓋内出血のため勧められていないので,本邦では一般的にtPAを投与した場合には24時間程度は抗血栓療法を行わないことが多い(もしくは行わないことになっている).再塞栓のリスクが高い,tPA中断など,やむを得ない理由により早期に行うにしても,tPA投与後の血栓回収と並行して抗血栓療法を行うことは少ないと思われる.このスタディにおいては,約3/4が発症78~80分でtPAをprimary hospitalで受けて,発症140~146分で血栓回収センターへ到着し,来院後30~35分で穿刺し血栓回収を受けている.血栓回収と並行してアスピリン,ヘパリン投与を受けているが,それに伴う症候性頭蓋内出血が有意に多くなりスタディが中止されている.抗血栓療法が再開通後の頭蓋内出血を増加させるのは間違いないことになった.
最終的な結論はまだ出ていないが,前方循環主幹動脈閉塞症においてtPAをスキップして血栓回収をするスタディも多くある.少なくとも現段階では,血栓回収による再開通後の出血を予防するために,事前の血栓溶解や平行した抗血栓療法にはかなり慎重になる必要があるように思われる.動脈硬化性病変(ステントや血管形成などが必要な場合)やトルソー症候群など追加の抗血栓療法が必要な場合でも,少なくとも血栓溶解(tPA投与)との併用は避けるようにしなければならない.(鹿児島市立病院 西牟田洋介)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

西牟田洋介