頭蓋底部脊索腫による外転神経麻痺は手術でどうなるのか:ピッツバーグ大学の113例

公開日:

2025年4月21日  

Skull base chordomas presenting with abducens nerve deficits: clinical characteristics and predictive factors for deficit improvement or resolution

Author:

Muthiah N  et al.

Affiliation:

Neurological Surgery, University of Pittsburgh Medical Center, Pittsburgh, Pennsylvania, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:39823590]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2025 Jan
巻数:Online ahead of print.
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【背景】

脊索腫の35%は頭蓋底部に発生し(文献1),頭蓋底部脊索腫の最多の神経症状は外転神経麻痺である(文献2,3).ピッツバーグ大学脳外科は2001年以降の20年間に手術を行った頭蓋底部脊索腫症例113例(平均年齢45歳,女性43%,腫瘍平均径18.6 mm)を対象に,治療前後の外転神経症状につき解析した.腫瘍の局在は,斜台内39.8%,錐体-斜台移行部25.7%,トルコ鞍-蝶形骨18.6%であった.摘出度は肉眼的全摘76.1%,ほぼ全摘14.2%,亜全摘9.7%であった.摘出後の再発は25.7%で認められた.初診時34例が外転神経症状(完全麻痺9例,部分麻痺24例,評価不能1例)を呈した.

【結論】

外転神経麻痺症状の持続期間中央値は3.6ヵ月.腫瘍と外転神経との隣接部は橋前槽82%,ドレロ管内88%,海綿静脈洞内62%であった.内視鏡下頭蓋底手術後,68%(23/34)は少なくとも部分的な回復を示し,56%(19/34)で完全回復を示した.手術直後に外転神経麻痺が悪化した6症例では改善は得られなかった.術前に部分麻痺のあった症例では,完全麻痺症例に比較して,手術後に麻痺が改善する可能性が高かった(p =.028).
外転神経麻痺の持続期間,腫瘍による外転神経の包含,腫瘍と外転神経の隣接部の長さ,性,年齢,肉眼的全摘出の有無,腫瘍体積,術後照射の有無は,外転神経麻痺の術後回復と相関はしなかった.

【評価】

外転神経麻痺は頭蓋底脊索腫では最もありふれた症状で,手術前に25-50%の症例で認められるが(文献4,5),この外転神経麻痺が手術後にどの様に変化するのかに関する報告はこれまでなかった.本稿は,ピッツバーグ大学脳外科で過去20年間に内視鏡下摘出術が行われた頭蓋底部脊索腫113例の後方視的研究であるが,術前の外転神経麻痺は34例すなわち30%(このうち完全麻痺は9例)で認められている.外転神経麻痺を有する例と有さない例では,性,年齢,腫瘍径等には差はなかったが,腫瘍による脳底動脈の包含は外転神経麻痺有り群で多かった(p =.002).
本シリーズでは,外眼筋運動神経モニタリング使用下での内視鏡手術で,肉眼的全摘出+ほぼ全摘が90%とかなり積極的な摘出が行われているが,手術後に68%で何らかの外転神経麻痺症状の改善が得られている.改善はおよそ術後14ヵ月以内に認められている.術前の麻痺の程度は術後の回復を左右し,部分麻痺の24例では完全回復が18例,部分回復が2例であったのに対して,完全麻痺の9例では部分回復が2例で,完全回復は1例のみであった.
本稿は,外転神経損傷を避けながらの内視鏡下の可及的摘出=外転神経への減圧が,術後の高率な外転神経障害の回復をもたらすことを示している.一方で完全麻痺症例では手術による機能回復はまれであることも示している.これらの事実は,手術前の患者・家族への重要な情報となり得るであろう.また,外転神経症状が軽微なうちに摘出手術を行うべきことも示唆している.
しかし,頭蓋底脊索腫に対する手術療法の得失を正確に評価するためには,術前に外転神経麻痺がなかった症例での術後の新規外転神経症状出現率についても知りたいところである.

執筆者: 

有田和徳