髄液中セルフリーDNA解析によるMYD88 L265P変異検出に基づく中枢神経系悪性リンパ腫の診断と治療の可能性

公開日:

2026年1月7日  

Multi-Institutional Assessment of Circulating Cell-Free DNA in Cerebrospinal Fluid Facilitates Central Nervous System Lymphoma Diagnosis and Treatment Initiation

Author:

Prager BC  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Massachusetts General Hospital, Boston, Massachusetts, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:41190874]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Nov
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

従来,中枢神経系(CNS)悪性リンパ腫の診断は,組織生検を必須としてきたが,この方法は神経学的合併症のリスクを伴い,また診断の遅延を招くことが多い.MYD88 L265PはCNSリンパ腫細胞において高頻度に認められる変異であり(文献1-3),セルフリーDNAを用いたPCRにより検出可能となっている(文献4-6).
MGHなどの米国の19施設で実施された本研究では,髄液中MYD88 L265P変異の検出がCNSリンパ腫診断の実用的手法となり得るかを検討した.CNSリンパ腫が鑑別診断に含まれる脳病変を有する174例から得られた髄液検体が検査され,このうち18例ではMYD88 L265P陽性であった.

【結論】

MYD88 L265P陽性率は,原発性CNSリンパ腫(PCNSL)14例中8例(57%)で,最終的にCNSリンパ腫と組織診断された患者全体の42%であった.MYD88 L265P陽性18例のうち臨床データが完全な14例が解析対象となった.組織生検が施行された症例では診断一致率は100%であった.本アッセイの特異度は100%,感度は40%,陽性的中率は100%,陰性的中率は83%であった.
MYD88 L265P陽性例のうち,中枢神経の組織生検を行う前あるいは行わずにリンパ腫に対する治療が開始された症例では,生検後治療開始の症例と比較して,治療開始までの時間が有意に短縮していた(中央値7日 vs 9日,p =.048).

【評価】

MYD88は,自然免疫系においてToll様受容体(TLR)およびIL-1受容体ファミリーからのシグナル伝達を担う重要なアダプター分子である.悪性リンパ腫,特にCNS悪性リンパ腫やびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)では,MYD88遺伝子のTIRドメインにおけるL265P変異が高頻度に認められる.このMYD88 L265P変異は,下流のIRAK-TRAF6経路を介してNF-κBシグナル伝達経路を恒常的に活性化し,腫瘍の発生・進展に中心的な役割を果たしていると考えられている.
CNS悪性リンパ腫患者の髄液中には,アポトーシス等によって崩壊したリンパ腫細胞から放出されたDNAが存在している可能性がある.本研究は,このリンパ腫由来の髄液中DNAのMYD88 L265P変異をPCRで検出し,その臨床的意義を明らかにしようという試みである.
その結果,CNSリンパ腫が鑑別診断に含まれた前向きコホート174例において,全症例の約10%,生検で最終的にCNSリンパ腫と診断された症例の42%で,MYD88 L265P変異が検出された.一方,本コホートにおいて,PCRによってMYD88 L265Pが検出された症例の全てでCNSリンパ腫の組織診断が確定した(特異度100%).陽性適中率も100%であった.これが事実ならCNS悪性リンパ腫が疑われる症例では,髄液中DNAのPCRでMYD88 L265P変異陽性の場合は悪性リンパ腫の診断を確定し,直ちに治療に移行すべきということになる.陰性の場合でも,臨床上あるいは画像上CNSリンパ腫の可能性が残る場合は早急に生検術を行う必要性があるであろう.
問題は,どのような患者集団でも陽性適中率が100%であるのかどうかである.
実は,多発性硬化症や抗GFAPアストロサイトパチーでもMYD88 L265Pが検出され得ることが報告されている(文献4,7).臨床上,このような疾患が疑われる場合は,他の追加検査を組み合わせることは必要であろう.

執筆者: 

有田和徳