脳幹前面-傍鞍部脳動脈瘤に対する経鼻内視鏡下動脈瘤クリッピング術:ピッツバーグ大学の連続34例40個

公開日:

2026年1月7日  

最終更新日:

2026年1月7日

Institutional experience using the endoscopic endonasal approach for the treatment of 40 intracranial aneurysms: indications, outcomes, and technical considerations

Author:

Karampouga M  et al.

Affiliation:

Departments of Neurological Surgery, University of Pittsburgh Medical Center, Pittsburgh, Pennsylvania, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:40882227]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2025 Aug
巻数:143(6)
開始ページ:1575

【背景】

経鼻内視鏡下アプローチ(EEA)は傍鞍部や脳幹前面の病変に対して腹側からの良好な術野を提供する.
本稿は,ピッツバーグ大学で過去20年間にEEAでクリッピングが施行された脳動脈瘤連続34例40個の後方視的解析である.6例は,同一手術で2個の動脈瘤がクリップされた.3例ではトルコ鞍部腫瘍の摘出が同時に実施された.7例はくも膜下出血発症で,4例は仮性動脈瘤であった.29個は傍床突起部/海綿静脈洞部内頚動脈に,10個は後方循環上にあった.1個の巨大動脈瘤は内頚動脈の錐体-海綿静脈洞部にあった.
この手術アプローチは,経験ある血管内スペシャリストが血管内治療が適切ではないと判断した場合に選択された.

【結論】

4例は占拠性効果のため,2例はコイル後の再開通のため,3例は抗血小板治療が禁忌/不耐のため,EEAが選択された.
術後合併症としては,髄液漏8例,髄膜炎3例,クリップの露出2例,小さな梗塞3例(2例で軽度障害を後遺),脳神経症状4例(いずれも改善か消失)が認められた.一方,脳挫傷,静脈梗塞,術後けいれん,視神経障害,下位脳神経症状,治療関連死亡はなかった.
2019年以降5年間の14例に限れば,合併症は主として髄液漏で,いずれも長期の影響はなかった.
術後は,動脈瘤の小さな残存が全40個中2個のみで認められた.62.6ヵ月の追跡期間中では,1個(上下垂体動脈瘤)だけがフローダイバーターによる追加治療を要した.

【評価】

血管内手術が登場する前は,脳幹前面の脳動脈瘤に対しては,経頚部経斜台,経口腔経斜台,経顔面経斜台などの頭蓋底手術によるクリッピングが採用されていた(文献1-3).しかし,これらのアプローチは合併症が多く,1990年代に登場した血管内治療にその役割が引き継がれた.
一方,動脈瘤の形態(広いネック,親血管狭窄,小型)や抗血小板薬に対する不耐性または禁忌のため血管内治療の実施が困難な動脈瘤もある.さらに,動脈瘤が脳神経よりも正中側に存在するため,外側からのアプローチは躊躇される症例も多い.側方アプローチと比較して,EEAは頭蓋底および深部血管構造へ直接到達が可能であり,脳の牽引や脳神経の操作を必要とせず,傍鞍部や斜台後方の動脈瘤に対して利点をもたらすことが,少数例のシリーズではあるが報告されてきた(文献4-7).
本研究シリーズでは,血管内治療のスペシャリストが,血管内手技による治療が困難と判断した脳幹前面-傍鞍部脳動脈瘤のみがEEAの適用となっている.その結果,34例40個のうち2例のみに動脈瘤残存が認められ,約5年間の追跡中,一例のみが追加治療を要している.良好な治療成績である.一方,合併症としては髄液漏8例,髄膜炎3例,クリップの露出2例と,このアプローチに特有なものが多い.ただし,本研究シリーズのうち2019年以降5年間の14例に限れば,合併症は主として髄液漏4例で,いずれも長期の影響はなかったとのことである.またこの期間ではクリップが露出した症例はなかった.これは,可撓性のあるクリップアプライヤーおよびヘッド部分が小さなクリップ(Peter Lazicクリップ,いわゆるDクリップ)を使用したことによるのかも知れない(文献8,9).
著者らはこの結果を受けて,EEA下クリッピングは内頚動脈傍鞍部動脈瘤や後方循環動脈瘤のうち,脳神経よりも正中側に存在し,かつ血管内治療が困難なものについては重要な治療オプションとなり得ると述べている.
しかし,問題はやはりEEA下の経斜台手術に伴う髄液漏,髄膜炎のリスクである.この問題が解決されれば,将来は,血管内治療が困難な脳動脈瘤のうち,上方は前交通動脈瘤から下方は椎骨動脈瘤までの広い範囲が,このアプローチの対象となるであろう.

<コメント>
本論文を読んだ第一印象は,「ついにこのような報告が出てきたか」というものである.近年,endoscopic endonasal approach(EEA)の適応拡大に伴い,経斜台アプローチは頭蓋底手術における一般的な手技として広く普及しつつある.術中に脳底動脈を直視下に容易に確認できる状況において,そのまま動脈瘤クリッピングの可能性が頭をよぎった術者は少なくないであろう.
一方で,本シリーズにおける全体の合併症率が44%に達している点については,慎重な解釈が必要である.著者らは2019年以降の症例では重篤な合併症は少ないと報告しているが,これは高度専門施設においてラーニングカーブを克服した後の成績であり,各施設が新たに本手技を導入した場合に同様の安全性が直ちに担保されるとは限らない.特にくも膜下出血症例では水頭症のリスクが高く,遅発性髄液漏の温床となり得る点は,本アプローチを検討するうえで極めて重要な課題である.
さらに,本研究は2005年からの症例が含まれており,フローダイバーターを含む血管内治療が飛躍的に進歩した現在の治療環境を踏まえると,EEAの位置づけについては改めて検討されるべきであろう.EEAによる動脈瘤クリッピングは,あくまで他の治療選択肢が極めて限定された状況における「究極の最終手段」として位置づけられるべきであり,その適応決定にあたっては,患者および家族に対する十分な説明と理解が不可欠である.(鹿児島大学脳神経外科 藤尾信吾)

執筆者: 

有田和徳