脳卒中症状に男女差はあるか:60文献約58万症例のメタ解析から

公開日:

2022年1月6日  

最終更新日:

2022年1月6日

Sex Differences in Presentation of Stroke: A Systematic Review and Meta-Analysis

Author:

Ali M  et al.

Affiliation:

Department of Neurology, Amsterdam UMC, Vrije Universiteit Amsterdam, the Netherlands

⇒ PubMedで読む[PMID:34903037]

ジャーナル名:Stroke.
発行年月:2021 Dec
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

女性の脳卒中患者では男性に比較して,生命予後・機能予後が悪いことが報告されている(文献1).その理由に関して,女性脳卒中症例では非焦点性症状あるいは非定型的症状が多いことが誤診を生み,急性期治療,二次予防を遅延させているという仮説がある(文献2,3,4,5).アムステルダム大学のチームは,60文献約58万症例(女性が半数)のメタ解析を行い,脳卒中症状の男女差について検討した.解析にはランダム効果モデルを用いた.

【結論】

非焦点性症状のうち頭痛(プール化OR[以下同様]1.24),意識/精神の変容(1.38),昏睡/混迷(1.39)は女性が男性に比べて有意に多かったが,非特異的症状や非神経症状は女性が少なかった(0.96).非焦点性症状全体では女性に多かったが(1.24,[CI,1.16~1.33]),報告間の不均質性は大きかった(I2=91.9%).
一方,焦点性症状のうち構音障害(1.14)と回転性めまい(1.23)は女性で有意に多く,麻痺/片麻痺(0.73)と局所視機能障害(0.83)は女性で少なかった.しかし,焦点性症状全体では性差は無かった(1.03,I2=91.9%).

【評価】

60文献約60万症例を対象としたこのメタ解析の結果,脳卒中の焦点性あるいは非焦点性症状の発現にはかなりの男女差があるかも知れないことが示された.しかし,高品質の研究は欠如しており,I2が50%を超える症状,症状群が多く,研究間の不均質性が高いことも明らかになった.
このことを受けて著者らは,女性において誤診や不充分な治療が多い原因を男女間の症状の差に求めるにはさらなる研究が必要であるとまとめている.
本研究でかろうじて示唆されたように,もし脳卒中の症状に男女差があるとすれば,それはどのようなメカニズムを背景にしているのであろうか.著者らは,まず心原性塞栓やくも膜下出血が女性に多いことを挙げている.しかしこれが女性の脳卒中で頭痛が多い原因となっているという根拠は示されてはいない.その他,女性では梗塞巣周囲の拡延性脱分極に対してより感受性が高く(文献6),このため頭痛が強いという仮説も紹介している.女性はより高齢になったときに脳卒中に罹患しやすく,このため既に存在している認知症状,精神社会的ストレス,うつが脳卒中の症状に影響を与えている可能性もあるという.また女性は片頭痛,てんかん,精神障害,転換性障害などの脳卒中類似症(stroke mimic)の診断を受けていることが多く,これが介護者の偏見をもたらしている可能性も有るらしい(文献7).さらに,脳卒中に対する受容や行動には男女差があり,女性は脳卒中症状を良く理解しており,男性では自ら救急車を呼ぶ傾向があるらしいが,これと臨床症状発現における男女差とがどのようにつながるかについては解説されていない.
結局,男女を問わず,頭痛,意識変容,くらくら感(light-headness),非回転性めまいなどの非焦点性の症状を訴える患者でも,常に脳卒中の可能性を考慮して神経学的あるいは放射線学的なスクリーニングをきちんと行うことが必要である. そうしなければ,もしかすると, 特に女性では原因疾患が見逃されやすいことについて,注意が必要かも知れない.

執筆者: 

有田和徳