椎骨動脈解離性動脈瘤の破裂のリスク因子は何か:117例の解析から

公開日:

2022年1月25日  

最終更新日:

2022年1月24日

Clinical and radiological risk factors for rupture of vertebral artery dissecting aneurysm: significance of the stagnation sign

Author:

Lee HJ   et al.

Affiliation:

Departments of Neurosurgery and Radiology, Seoul St. Mary's Hospital, The Catholic University of Korea College of Medicine, Seoul, South Korea

⇒ PubMedで読む[PMID:34920434]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2021 Dec
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

椎骨動脈解離性動脈瘤(VADA)は脳外科医の日常診療で経験するありふれた疾患であり,多くは後頭部痛,頚部痛,一過性脳幹症状で発症するが,破裂しくも膜下出血を来す例もある.では,どのようなVADAが破裂するのか?
本稿はソウル・カトリック大学で過去12年間に経験したVADA111例の解析である.平均年齢53歳,43%が女性,解離の大きさは平均12 mmであった.受診時にくも膜下出血を起こしていたのは34例(29%)であった.
全例でDSAを行なった.瘤の形状はパール・アンド・ストリング66%,紡錘状23%,嚢状11%で,テーパー状狭窄はなかった.瘤内の造影剤停滞は46例(39%)に認められた.

【結論】

性,年齢,併存症,喫煙歴,動脈瘤径,形状,VAの優位性,PICAを含むか否か,DSA上の動脈瘤の形状などの因子を単・重回帰解析した.重回帰解析の結果,受診時の破裂・くも膜下出血と独立相関していたのは,紡錘状の形態,不整な形状,PICAを含むもの,そして造影剤の停滞であった(ORは各5.1,4.2,3.8,3.3).
未破裂VADAでもこれらの破裂相関因子を伴うものは,より積極的な治療が必要であるかも知れない.

【評価】

椎骨動脈解離性動脈瘤(VADA)の予後は全体としてみれば良好であるが,破裂例における再破裂は約4割と嚢状動脈瘤に比較して高く,死亡率も約6割に達する(文献1,2,3,4).本稿は,111例のVADAの後方視的解析によって破裂リスクを求めたものである.対象症例の症状は偶然発見19%,頭痛36%,脳幹症状16%,くも膜下出血29%と破裂の割合が比較的多く,また対象例全例がDSAを受けているということを見てもかなりの重症例を集めていることが推測される.これは脳動脈瘤治療数が年間約350例という著者らの施設の3次脳卒中センターとしての特質を反映しているのかも知れない.
従来,破裂したVADAでは未破裂例に比較して紡錘状,不整な形状,PICAを含むものが多い事が知られているが,本研究では造影剤の停滞もまた破裂との独立した相関因子であることを明らかにした点でユニークである.著者らによれば,造影剤の停滞すなわち血流の停滞は壁せん断応力の低下を意味し,それは局所酸化ストレス,炎症,基質崩壊,血管壁のリモデリングをもたらし,結果として血管壁の脆弱化と破裂につながるという.
著者らはこの多変量回帰解析の結果を受けて,未破裂のVADAでも上記の4つの特徴を持った瘤は破裂しやすいので,早く積極的に治療をしなさいと勧奨している.
あれ?と思わせる結論・勧奨である.一般に破裂した解離性動脈瘤の再破裂率はかなり高いが,未破裂で発見された解離性動脈瘤の破裂の可能性はかなり低く,Mizutaniは98例の未破裂の頭蓋内解離性動脈瘤の平均3.4年間における追跡で,破裂は1例のみに生じたことを報告している(文献6).また,解離性動脈瘤全体では破裂のリスクは1~2/600例前後であるというシミュレーションもされている(文献7).すなわち,破裂した解離性動脈瘤と未破裂の解離性動脈瘤の性質はかなり異なっていることが推測され,破裂した解離性動脈瘤の特徴から未破裂の解離性動脈瘤の破裂予測因子を求めるには,かなりの論理の飛躍がありそうである.
今後,多数例の未破裂のVADAを対象とした前向き研究で,破裂のリスクが実際にいくらくらいであるのか,同時に上記4個の特徴が本当にその後の破裂の予測因子であるのかどうか,検証が行われるべきである.

<コメント>
上記評価で言及されているように,本稿において未破裂椎骨動脈解離と破裂椎骨動脈解離が同じ土俵で検討されていることに強い違和感を感じる.本研究は破裂前後で椎骨動脈解離性動脈瘤の画像所見が変化していないという仮定の上での研究である.未破裂椎骨動脈解離の破裂の危険因子を論ずる場合は,対象を未破裂例に限って検討すべきであろう.椎骨動脈解離でも多施設で未破裂例を長期追跡,検討すれば,リスク因子を明らかに出来るはずである(文献8).
多くの椎骨動脈解離がヒーリング変化することは良く知られており,椎骨動脈解離の病理を論じる場合,解離からの日数が重要で,本論文でも発症からDSA検査までの日数は記載すべきであった.椎骨動脈解離の病理は時期によりダイナミックに変化し,本文中に記載されている病理分類TypeI(内弾性板と中膜の解離),TypeII(中膜と外膜の解離)のように単純ではない(文献9).一般に,未破裂例では,発症から1~2週間程度経過している例では破裂リスクは大きく低下するため,画像所見(紡錘状の形態,不整な形状,PICAを含むもの,造影剤の停滞等)のみで,治療適応を判断出来ない.(島根県立中央病院脳神経外科 井川房夫)

執筆者: 

有田和徳