公開日:
2022年2月15日最終更新日:
2022年3月3日Neurosurgical versus endovascular treatment of craniocervical junction arteriovenous fistulas: a multicenter cohort study of 97 patients
Author:
Takai K et al.Affiliation:
Department of Neurosurgery, Tokyo Metropolitan Neurological Hospital, Tokyo, Japanジャーナル名: | J Neurosurg. |
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発行年月: | 2021 Dec |
巻数: | Online ahead of print. |
開始ページ: |
【背景】
頭蓋頸椎移行部の脳動静脈瘻(AVF)は細い脊髄動脈が関与し,上位頸髄や脳幹などの重要構造に隣接しており,その治療は容易ではない.主要な治療法には脳外科手術と血管内治療があるがその優劣については決着がついていない.本稿は日本脊髄外科学会が実施したコホート研究である.手術治療は後頭下開頭とC1椎弓切除によって瘻孔-流出静脈遮断を,血管内治療はNBCAやコイルによる瘻孔閉塞を基本とした.78例が脳外科手術を,19例が血管内治療を受けた.一次エンドポイントは再治療の必要性とした.
【結論】
脳外科手術と血管内治療では,再治療率は2.6%(2/78)と 63%(12/19)(p<.001),合併症率は22%と42%(p=.084),虚血性合併症率は7.7%と26%(p=.037),死亡率は2.6%と0%(p>.99),中央値23ヵ月後のmRSの改善率は60%と37%(p=.043)であった.多変量解析では血管内手術が再治療の必要性の独立した関連因子であった(OR 54,p<.001).
脳外科手術は再治療率や虚血性合併症が少なく,機能予後が良好であるので,頭蓋頸椎移行部AVFに対する治療として,血管内治療より効果的で安全である.
【評価】
頭蓋頸椎移行部AVFに対する治療は血管内治療よりも脳外科手術の方が有効で安全だという,非常に明快な結論である.脳外科手術群では再治療が必要な症例は2.6%に過ぎないが,血管内治療群では63%と高い.さらに再治療(2回目治療)が必要になった15例中12例では脳外科手術が行われた結果,その後の再治療の必要性は無くなった.一方,再治療(2回目治療)でも血管内治療が選択された3例では,その後も追加治療が必要になったという.
頭蓋頸椎移行部AVFには神経根髄膜動脈とともに脊髄動脈からも血液が流入していることが多く,そしてシャントポイントはC1/C2神経根,脊髄上,硬膜内,硬膜外と複数存在することもある(文献1,2).このため,血管内治療で経動脈的に流出静脈を確実に閉塞することは困難なことが多い.これが,頸・胸髄のAVFに比べて頭蓋頸椎移行部AVFに対する血管内治療の難易度が高い原因とされている(文献2).
もちろん,本研究は後ろ向きの解析であるので,この結論は今後RCTで検証されなければならないが,これだけの大差がつけば,RCTの実施は困難である.今後,頭蓋頸椎移行部AVFに対する治療は脳外科手術すなわち直視下での流出静脈閉塞が基本となるであろう.
<共著者コメント>
C1及びC2レベルの頭蓋頚椎移行部動静脈瘻(CCJ AVF)は,大学病院などの大規模施設でも年にわずかしか経験されない稀少疾患であり,診断や治療法の確立には至っていない.本研究は主に脊髄外科医の視点から,直達手術と血管内治療について,日本脊髄外科学会公認のもと,日本全国の主要な施設の症例を収集したコホート研究である.CCJ AVFは,平松らが詳細な血管解剖に基づく分類を行なっているが(文献1),そもそもnon-sinal typeの動静脈瘻であり,罹患静脈洞を閉塞することで治療がほぼ完成する頭蓋内硬膜動静脈瘻と異なり,一般に血管内手技単独での治療は困難であると考えられている.
本研究では,一次エンドポイントである再治療は,血管内治療群で63%と高いことが明らかとなった.治療に伴う虚血性合併症では脊髄梗塞や脳幹梗塞など重篤なものが発生し得るが,その発生率は血管内治療群でより多くみられたという結果であった.再治療が必要となった症例の中では,初回は血管内治療が行われ,2回目以降で直達手術が選択されている症例が多かった.同部の複雑な血管構築ゆえに血管内治療のみでは限界がある症例が多いことと,その見極めが必要であることを示唆している.
そもそも本研究では直達手術症例に比較し血管内治療症例数が圧倒的に少ない.その背景には脊髄血管病変に精通した血管内治療医が常駐しているか(相談できる環境にあるか)など,社会的要因も垣間見られる.CCJ AVFに対する治療は血管内治療よりも脳外科手術の方が有効で安全であるという本稿の結論であるが,CCJ AVFの中でもepidural AVF等は病態として直達手術より血管内治療にadvantageがあると考えられる.稀少疾患であるが故に直達手術及び血管内治療ともに風通しの良い環境での治療対応が期待される.(広島大学脳神経外科 光原崇文)
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Hiramatsu M, et al. Angioarchitecture of arteriovenous fistulas at the craniocervical junction: a multicenter cohort study of 54 patients. J Neurosurg. 128(6): 1839-1849, 2018.
- 2) Sato K, et al. Concurrent dural and perimedullary arteriovenous fistulas at the craniocervical junction: case series with special reference to angioarchitecture. J Neurosurg. 118(2): 451-459, 2013.
参考サマリー
- 1) 硬膜動静脈瘻に脳動脈瘤は合併しやすいのか;CONDOR国際研究1,043例から
- 2) 脳動静脈奇形に対する定位手術的照射(SRS)前の塞栓術はAVM閉塞の阻害因子か:傾向スコア法でマッチさせた202症例による検討
- 3) 後頭蓋窩AVMに対する塞栓術の合併症率は高い:JR-NETの788例
- 4) 後頭蓋窩AVMは天幕上AVMとどう違うのか:77報告(4,512例)のシステマティックレビュー
- 5) KRASの活性化型変異:脳動静脈奇形の原因遺伝子変異か
- 6) AVM完全摘出後でも長期追跡中の同一部位の出血率は2.4%
- 7) 長期追跡によるAVMに対する定位放射線治療の有効性の証明:ARUBA試験に対する反証