ハイグレードの症候性頭蓋内動脈狭窄に対する薬剤溶出ステントとベアメタルステントの最初のRCT

公開日:

2022年2月16日  

最終更新日:

2022年2月17日

Comparison of Drug-Eluting Stent With Bare-Metal Stent in Patients With Symptomatic High-grade Intracranial Atherosclerotic Stenosis: A Randomized Clinical Trial

Author:

Jia B  et al.

Affiliation:

Interventional Neuroradiology Center, Beijing Tiantan Hospital, Capital Medical University, Beijing, China

⇒ PubMedで読む[PMID:34982098]

ジャーナル名:JAMA Neurol.
発行年月:2022 Feb
巻数:79(2)
開始ページ:176

【背景】

冠動脈ステントの領域では,従来のベアメタルステント(BMS)から,ステント内狭窄の原因である過剰な内膜増殖を抑制する薬剤が塗布された薬剤溶出性ステント(DES)への切り替えがほぼ完成している.本稿は中国16施設で2015年から3.5年間で実施された頭蓋内動脈狭窄に対するDES対BMSのRCTである.対象は頭蓋内動脈に70~99%の狭窄を有し,その領域のTIAかnondisablingな梗塞後90日以内に血管内治療が可能であった263例(男性194例,年齢中央値58歳).132例はDES,131例はBMSに割り当てられた.結果はITT解析した.クロスオーバー違反は2群とも2例であった.

【結論】

一次効果評価項目である1年以内のステント内狭窄(>50%)はDES群で有意に少なかった(9.5 vs 30.2%,OR:0.24,p<.001).31日から1年の虚血性脳卒中の発生もDES群で有意に少なかった(0.8 vs 6.9%,HR:0.10,p<.03).
一次安全性評価項目である治療後30日以内の死亡か脳卒中は2群間で差がなかった(7.6 vs 5.3%,OR:1.45,p=.46).

【評価】

冠動脈ステントの領域では,ステント再狭窄の主要な原因である内皮細胞や血管平滑筋の過剰な増殖や遊走を抑制するために,薬剤(抗癌剤や免疫抑制剤など)を含むポリマーをステントに塗布したDESが20年以上前に開発され,再狭窄率を劇的に減少させることが報告された.本邦では2004年8月よりシロリムス溶出性ステントの臨床使用が可能となったが,ポリマーに起因する慢性期の遅発性ステント血栓症などが問題となり,2011年で製造中止となった.2010年からは,我が国でも生体適合性の高いポリマーを使用した第2世代DESが使用されている.第2世代DESでは内膜増殖抑制剤として,ゾタロリムス,バイオリムス,エベロリムスなどが用いられている.最近は生体吸収性ポリマーを使用した第3世代DESが登場し,ポリマーも血管接触面のみの片面コーティングやより薄いストラットとなっている.また,留置後に本体が消失する生体吸収性スキャフォールドの登場も今後期待されている.現在,冠動脈ステントの領域ではBMSを使用することはなくなった.
一方,DESは再狭窄率を減少させるが,血管の再内皮化も遅延させるため,BMSと比較してステント血栓症の頻度が高くなる可能性があり,BMSよりも長期間の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を要することが問題とされてきた.しかし最近は,ステントの改良もあり,DAPTの期間も通常3~6ヵ月まで短縮してきている.本稿の試験では,DES群,BMS群ともアスピリン100 mgとクロピドグレル75 mgのDAPTが90日間行われ,その後アスピリンかクロピドグレルの単剤投与が維持された.
これまでにも頭蓋内動脈狭窄に対するDESの有効性を示唆した報告はあったが,いずれも後方視的研究とそのメタ解析であった(文献1,2,3).本研究は,263例という多数例でのRCTであり,一次評価項目のステント内狭窄(>50%)の発生率においても,二次評価項目の虚血性脳卒中の発生率や症候性ステント内狭窄の発生率においても,BMSと比較してDESの効果が有意に高かった.治療対象となった頭蓋内動脈は前方循環と後方循環がほぼ同数であった.本研究は,症候性の高度頭蓋内動脈狭窄に対するステント術において,BMSに対するDESの優位性を示した初めてのRCTということになる.注意すべきは,対象患者は症候性の高度狭窄を有するのみならず,症候性となった段階において1剤以上の抗血小板剤を使用中(実際には8割がDAPT中)でかつ高血圧,糖尿病などの脳梗塞リスク因子に対する治療が行われている患者となっており,かなりの重症患者が選択されていることである.なお,使用したステントはDESがシロリムス塗布NOVAステント,BMSはApolloステントでいずれも中国メーカー製である.
一方,頭蓋内動脈狭窄に対する薬物治療との比較に関しては,2011年発表のSAMMPRIS試験(自己拡張型ステント)と2015年発表のVISSIT試験(バルーン拡張型ステント)において,ステントより積極的薬物療法の方が脳卒中再発抑制効果が高いことが示されている(文献4,5).今後改めて,DESを用いたステントと積極的薬物療法を比較するRCTが実施されるべきであろう.また,本論文では触れられていない病変部位と穿通動脈との関係は,今後,ステント治療の適応を判断していく上での必須情報であり,今後明らかにされるべきである.
ちなみに,2022年1月現在,頭蓋内動脈狭窄症に対するステントとして本邦で承認されているのはBMSのWingspanステント(ストライカー)のみで,頭蓋内動脈形成時の血管解離,急性閉塞,切迫閉塞のみが保険適応となっている.

<コメント>
冠動脈狭窄においては急性期,慢性期に関係なくDESが積極的に用いられておりBMSから完全に置き換わっている.一方で頭蓋内脳血管狭窄においては急性期使用の保険適応デバイスはなく,慢性期において血管形成(PTA)時の血管解離や急性閉塞に対するレスキュー目的のみでBMS(Wingspan)が保険適応となっている.従来も虚血性頭・頸部動脈病変に対する外科介入のRCTを成功させるうえでの一つのポイントは術者の技量であった(IC/EC bypass,CASのRCT,SAMMPRISなど)が,本研究は術者選択においてもきちんとデザインされており,頭蓋内血管狭窄に対するDESの将来性を期待させるものとなっている.現在,急性虚血性脳卒中(AIS)に対する血栓回収術の症例が飛躍的に増加しているが,動脈硬化に起因する急性閉塞(ICAD)に対してはPTAだけでも再閉塞することが多い.しかしながら急性期に使用できる保険適応のステントはないためリアルワールドでは治療に難渋することも多い.このような症例に対してDESの可能性は期待されるところではあるが,頭蓋内血管特有の穿通枝に対してどのような影響が出るのか(snow pillow effectなど),十分に検証する必要がある.現時点では倫理委員会を通したうえでのcoronary BMSやneck bridge stentを限定的に使用することにならざるを得ない.その有効性についてはエビデンスレベルが低いものの有効例が散見されている.一方,DESについては溶出薬剤による頭蓋内血管への影響が明らかとなっていない状況では更なるエビデンスの蓄積が必要であり,各施設で安易にDESを用いるのは時期尚早と考える.(広島大学脳神経外科 堀江信貴)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

小瀬戸一平