低悪性度グリオーマに対する脳回一塊摘出の意義:ミシガン大学における519例での検討

公開日:

2022年2月16日  

最終更新日:

2022年2月17日

Circumferential sulcus-guided resection technique for improved outcomes of low-grade gliomas

Author:

Al-Holou WN  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Brain Tumor Center, The University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, Texas, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:34996044]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2022 
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

比較的低悪性度のグリオーマ(グレード2,3)の手術は,MRI上での造影部分やT2高信号部分をターゲットとして病変の中から周辺部に向かって摘出を進めていくという方法(piecemeal resection,PMR)と,病変を含む脳回を周囲の脳溝で剥離して,一塊として摘出する方法(sulcus-guided resection,SGR)に大別される.本稿はミシガン大学で過去22年間に摘出術を行った519例(グレード2:39%,グレード3:61%)を対象にPMRに対するSGRの得失を評価したものである.208例(40%)がSGRで,311例(60%)がPMRで摘出された.

【結論】

摘出度中央値はSGRがPMRより高かった(84 vs 77%,p=.019).多変量解析で,腫瘍全摘出達成と相関する独立の因子であったのは腫瘍体積(37 cm³以下)(34 vs 9%,p=.001)ならびにSGR(27 vs 18%,OR 1.7,p=.03)であった.術後神経学的合併症はPMRに比較してSGRの方が少ない傾向であった(11 vs 16%,p=.09).エロクエント・エリアの腫瘍の割合はSGRで少なかったが(28 vs 42%,p=.002),神経学的合併症の発生率はPMRと同様であった(12 vs 21%,p=.16).

【評価】

低悪性度のグリオーマでは腫瘍の肉眼的全摘出の有無が予後に大きく影響することは良く知られている(文献1,2).低悪性度のグリオーマの場合,脳溝を越えて隣の脳回に進展することは少ない事から,腫瘍を含む脳回を丸ごと摘出することによって全摘出率を上げることが出来るというSGRのアイデアは以前からあった(文献3,4).しかし従来,SGRとPMRとのきちんとした比較はされていなかった.
本研究は,1施設で経験したグレード2,3のグリオーマ519例を対象としたSGRとPMRの比較である.本研究におけるSGRは脳溝を開いて隣の脳回と剥離するtranssulcal dissectionを基本とし,エロクエント・エリアに隣接している部位では軟膜下で脳溝と剥離するsubpial dissectionも実施されている.また,もともとSGRが実施出来ない深部腫瘍や後頭蓋窩腫瘍は除外されている.その結果,SGRの方がPMRよりも腫瘍摘出率,全摘出率が有意に高く,逆に術後の神経学的な合併症は少ない傾向であった(p=.09).SGRの施行率はエロクエント・エリアの腫瘍187例では31.0%であり,ノンエロクエント・エリアの腫瘍331例の45.3%に比較すれば当然低いが,エロクエント・エリア内の腫瘍に限れば,SGRとPMRで術後の神経学的合併症の発生率に差はなかったという.
ちなみに本研究では,OSと相関する因子についてCoxの回帰解析も行われており,摘出率(>75%),小さな腫瘍体積,乏突起膠腫(星細胞腫に対して)がOSと有意に相関していた.またグレード3に対してグレード2は良好なOSと相関する傾向であった(p=.059).これらは当然の結果というべきであろう.しかし,SGRとOSとの相関はなかったとのことで,多少意外な結果である.PMRに比べればSGRの方が,腫瘍摘出率と全摘出率は高いし,おそらく播種も少ないはずであるから,当然OSも延長しそうな気がする.このような結果になった原因としては症例数の問題もあろうが,対象症例にはグレード2も3も,星細胞腫も乏突起膠腫も含まれており,さらにIDH,ATRX,1p/19q欠失などの遺伝学的な基本情報も不明である.すなわち雑多な腫瘍に対する十把一絡げの解析になっていることが本研究の最大の問題点であろう.今後,多施設共同研究による多数例の蓄積を背景に各腫瘍群毎の解析でOSやPFSに対するSGRの効果が示されることを期待したい.
注意すべきは,脳溝を開いて,健常な脳回と腫瘍を含む脳回を剥離するという手技そのものに潜むリスクである.本研究では神経学的合併症の発生率に差はなかったとの結果であるが,これは,この研究チームに属する術者の力量によるところが大きいのかも知れない.脳溝深部には健常な脳回に向かう動脈や健常脳回からの環流静脈が存在している.これらを温存しながら,腫瘍を含む脳回に向かう動静脈のみを正確に処理するのは意外と難しい.SGRは,動脈瘤や脳動静脈奇形の手術と同様に,優れたマイクロサージャリーの技術が問われる難度の高い手術手技であることに留意が必要である.

執筆者: 

有田和徳