無症候性頭蓋底髄膜腫に対して最初からガンマナイフ治療をするのか経過観察するのか:220例のマッチドコホートでの比較

公開日:

2022年3月7日  

最終更新日:

2022年3月7日

Stereotactic radiosurgery versus active surveillance for asymptomatic, skull-based meningiomas: an international, multicenter matched cohort study

Author:

Mantziaris G  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, University of Virginia Health System, Charlottesville, VA, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:35067846]

ジャーナル名:J Neurooncol.
発行年月:2022 Feb
巻数:156(3)
開始ページ:509

【背景】

無症候性の頭蓋底髄膜腫を見つけた時に,直ぐにガンマナイフ治療を行うべきか,経過観察を行うべきか.本研究は米国を中心とする世界の32のセンターで実施された後ろ向き研究である.対象は無症候性頭蓋底髄膜腫417例で,307例がup frontのガンマナイフ治療を受け(SRS群),110例がactive surveillanceを受けた(観察群).年齢,腫瘍体積,追跡年数を傾向スコア法で調整してSRS群,観察群それぞれ110例からなるマッチドコホートを作成した.マッチドコホートの平均年齢は約63歳,腫瘍体積は約3.8 c m³.画像追跡期間中央値は42ヵ月であった.SRSの辺縁線量は13.1 Gy.

【結論】

RANO基準(文献1)による腫瘍コントロール(面積増加25%以下,体積増加40%以下),新規神経症状の出現などをエンドポイントとした.マッチドコホートにおける腫瘍コントロール率はSRS群98.2%,観察群61.8%でSRSの方が有意に高かった(HR=0.01,p<.001).神経症状の悪化はSRS群で2.7%,観察群5.5%で認められた(p=.89).経過観察中に手術療法が必要になった頻度は,SRS群が観察群に比較して有意に低かった(0.9 vs 10%).多変量解析ではup front SRSが腫瘍コントロールの唯一の予測因子であった(HR=0.01,p<.001).

【評価】

頭蓋底髄膜腫は無症候性髄膜腫の34%を占め(文献2),その解剖学的な位置ゆえに手術の困難さが予測されることから,増大あるいは症状出現までは経過観察が選択されることが多い.この研究は無症候性髄膜腫に対するup frontのガンマナイフと,active surveillance(積極的な監視,経過観察)を比較したものであるが,約42ヵ月の経過観察期間で,up frontのガンマナイフの方が,腫瘍コントロールが良好で神経症状出現が少ないことを明らかにした.
著者らはこの結果を受けて,無症候性の頭蓋底髄膜腫に対する初期治療としてはup frontのガンマナイフが提案されるべきであると結論している.一方,積極的な監視が選択された場合でも腫瘍増大が認められた段階で,症状出現前にガンマナイフが実施されるべきであると言っている.
しかし,頭蓋底髄膜腫の中で,症候性となるものの頻度は2.6~40%と報告によって様々であり(文献3),長期間増大しないものがあることは事実である.これまで,年齢,性,大きさ,T2強調MRIでの高信号,腫瘍周囲浮腫,石灰化の有無などに基づいて,増大しやすい髄膜腫を抽出しようという試みは数多く報告されてきた(文献4,5).こうした事実を考慮せずに,本稿のようにup frontのガンマナイフ照射を推奨するのは正しいのであろうか.また,本研究における経過観察群では,どのような画像所見の腫瘍が対象となったのか,またどのくらいの間隔で画像チェックがなされたのかは明らかではない.文字通りactive surveillanceが行われ,腫瘍が多少とも増大した段階でSRSが行われていれば,経過観察群で手術が必要となった症例数は少なくなった可能性は高い.
また,最近の日本からの報告によれば,髄膜腫はその発生部位によって発生した髄膜の胎生原基(神経堤,傍軸中胚葉,背側中胚葉)や遺伝子変異は異なっているようである(文献6).今後はこうした情報も含めて,どのような頭蓋底髄膜腫症例にup frontのガンマナイフ照射が行われるべきか,検討が必要であると思われる.

執筆者: 

有田和徳