紫外線の量と動脈瘤破裂によるくも膜下出血の頻度は反比例する:国際比較

公開日:

2025年3月13日  

Association of Global Ultraviolet Radiation With the Incidence of Aneurysmal Subarachnoid Hemorrhage

Author:

Mirbagheri A  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, University Hospital Mannheim, Medical Faculty Mannheim, University of Heidelberg, Mannheim, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:38949385]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Feb
巻数:96(2)
開始ページ:396

【背景】

炎症は動脈瘤破裂の重要な因子であり(文献1,2),炎症を抑制することによって動脈瘤の破裂を回避できるかもしれない(文献3,4,5).一方,紫外線は免疫抑制を通して全身的な抗炎症反応を引き起こす可能性がある(文献6,7).またくも膜下出血が冬場に多いのも紫外線への曝露の減少が影響しているのかも知れない(文献8,9).ハイデルベルク大学脳外科は,世界各国の紫外線の量とくも膜下出血の発生頻度との相関を検討した.国別の年間くも膜下出血(SAH)の頻度が判明している32ヵ国を対象とした.
国別のSAHの発生率は1.3-28/10万人・年で,紫外線インデックス(UVI)は 1.76-11.27であった.

【結論】

全対象国でのSAH発生率とUVIは有意に逆相関した(相関係数[ρ]=0.48,p =.012).日本はSAH発生頻度が最高で13.7-27.9/10万人・年,UVIは6.28であった.チリはUVIが最高で11.27,SAH発生頻度は3.8-4.8/10万人・年であった.アイスランドはUVI 1.76と最低で,SAH発生頻度は高かった(9.8/10万人・年).欧州内では,UVIが高い地域(南東部ヨーロッパ)は,低い地域(北西部ヨーロッパ)と比較してSAH発生率が有意に低かった(ρ =0.68,p =.004).
全対象国でのUVIの低さは,有意に高いSAH発生率を予測した(オッズ比 =5.13).

【評価】

本研究は,国別のくも膜下出血の発生率は,国別の紫外線曝露(UVインデックス)と逆相関することを明瞭に示している.著者らは紫外線曝露が未破裂動脈瘤の壁における抗炎症作用を引き起こし,破裂を防止する可能性を指摘している.また紫外線曝露はビタミンD合成を促進するが,ビタミンDの増加が動脈瘤の破裂を抑制している可能性も示唆している(文献10,11).
斬新な問題提起ではあるが,国民の平均年齢,合併症(高血圧,糖尿病,高脂血症など)の頻度,喫煙率などの交絡因子の可能性を一切考慮に入れていない,かなり乱暴な研究手法と思われる.さらに,UVIが高い国でのSAH発生率の信頼性も議論の対象となるかも知れない.
ただし,この提案は,交絡因子についてのデータが整った日本において,日照時間に差がある太平洋側と日本海側でSAH発生頻度に差があるのかどうか,また患者個人ごとの戸外活動の時間によってSAH発生率に差があるのかどうかを比較することで検証可能かも知れない.本研究結果の正しさが証明されれば,将来は,未破裂動脈瘤患者に対する戸外活動やマイルドな紫外線照射が推奨される日が来るかも知れない.

執筆者: 

有田和徳

関連文献