血栓回収には経大腿動脈経由か経橈骨動脈経由か:最近の10報4,290例のメタアナリシス

公開日:

2025年6月20日  

Transradial Versus Transfemoral Access for Mechanical Thrombectomy in Acute Ischemic Stroke: An Update Meta-Analysis and Trial Sequential Analysis

Author:

Punukollu A  et al.

Affiliation:

Andhra Medical College, Visakhapatnam, India

⇒ PubMedで読む[PMID:40293239]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Apr
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

急性頭蓋内動脈閉塞に対する血栓除去術のアクセスとしては,従来大腿動脈経由(TFA)が選択されることが多かったが(文献1),最近は橈骨動脈経由(TRA)の血栓除去術の有用性の報告も増えている(文献2-5).しかしながら,TRAによる血栓除去術の効果と安全性に関するエビデンスは未だ充分ではない.本稿は,過去5年間に発表されたTRAとTFAを比較した10報4,290例のメタアナリシスと逐次試験解析である.解析対象には1報のRCT(文献2)と9報の観察研究が含まれた.763例(17.8%)でTRAが,3,527例(82.2%)でTFAがアクセス・ルートとして選択された.

【結論】

再開通成功率(OR 0.88,p =.55),完全再開通率(OR 1.15,p =.23),ファーストパス効果(OR 0.83,p =.06),穿刺から再開通までの時間(平均差−1.67分,p =.57),穿刺部合併症(OR 0.70,p =.44),症候性頭蓋内出血(OR 0.93,p =.71),アクセス部位変更(OR 1.71,p =.21),デバイス通過回数(平均差0.17,p =.18),入院期間(平均差−0.59日,p =.09),3ヵ月後の良好な転帰(OR 0.85,p =.40)のいずれの評価項目においても,有意差は認められなかった.

【評価】

心血管インターベンションの領域では,橈骨動脈アクセスの方が大腿動脈アクセスと比較して重篤な血管合併症や治療手技関連死亡が少ないことが大規模試験で証明されており(文献6,7,8),欧州心臓学会は経皮冠動脈形成術(PCI)におけるアクセス・ルートの橈骨動脈への変更を推奨している(文献9).一方近年,脳主幹動脈閉塞に対するアクセス動脈として橈骨動脈を選択する報告も増えているが,RCTは一報のみで,まだその優位性は定まっていない.本稿は,2019年以降に発表された10報告のメタアナリシスである.
このメタアナリシスでは,比較を行った全評価項目,すなわち再開通成功率,完全再開通率,ファーストパス効果,穿刺から再開通までの時間,穿刺部合併症,症候性頭蓋内出血,アクセス部位変更,デバイス通過回数,入院期間,3ヵ月後の良好な転帰,いずれの評価項目においてもTFAとTRAでは差は認められなかった.その意味では,本研究は,TRAの導入を促進するものとはなっていない.しかし,ファーストパス効果や入院期間についてはTRAがやや有利な傾向であった(p =.06とp =.09).
注意しなければならないのは,TRAは術者の経験数が低く,多くの術者が慣れ親しんだTFAとすると,その点で圧倒的に不利な条件での比較である点である.今後,心血管系に対するインターベンションと同様にTRAが増加し,術者の経験数が増えれば,TFAに対する優位性が明らかになるのかも知れない.また,既存の脳血管内治療デバイスが基本的にはTFA用であることもTRAにとっては不利な条件となっている.TRA用のデバイスが開発・導入されれば,この状況は変化する可能性がある.Kuroiwaらは,TRA用に設計された6F Simmonsガイディングシースを用いて,前方循環の閉塞症例において,良好なカニュレーションおよび再開通を報告している(文献10).今後のTRA専用の脳血管内治療デバイスの開発に期待したい.その上で,ある程度TRAを経験した術者の手によるRCTで,両アプローチの得失が明らかになることを期待したい.

執筆者: 

有田和徳

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