現在のCTスキャン実施状況では放射線誘発癌は生涯癌発生の原因の5%を占めるようになる:米国でのCT線量登録に基づく推定

公開日:

2025年7月10日  

最終更新日:

2025年7月10日

Projected Lifetime Cancer Risks From Current Computed Tomography Imaging

Author:

Smith-Bindman R  et al.

Affiliation:

Department of Epidemiology and Biostatistics, University of California, San Francisco, San Francisco, CA, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:40227719]

ジャーナル名:JAMA Intern Med.
発行年月:2025 Jun
巻数:185(6)
開始ページ:710

【背景】

救急の第一線に立つ脳外科医にとってCTスキャンは日常臨床に必須の武器であるが,放線線被爆による発癌のリスクは危惧されるところである.
UCSFの疫学・生物統計学などのチームは,米国143病院をカバーするCT線量レジストリを用いて,2023年に米国で実施された6,151万人,9,300万件のCT検査の臓器別線量を推定し,将来的に発症する米国国民の癌の生涯発生数を推計した.
発癌リスクの推定には,広島・長崎の原爆被爆者約12万人を対象とした長期コホート研究を背景としたBEIR VII報告に基づいて作成された,臓器別被曝線量毎の米国人における生涯発癌リスク推定ツール(RadRAT)を用いた.

【結論】

米国で2023年に実施されたCT検査では,将来的に約10万3,000件(1検査あたり0.0011件)の癌が誘発されると推定された.現行の放射線量および利用水準が続く場合,CT検査に起因する癌は将来的に年間新規癌の約5%を占める可能性がある.この寄与度はアルコール摂取や過体重などの危険因子と同程度であった.小児における1検査あたりのリスクは高かったが,成人での検査件数が多いため,予測される癌の90%は成人に発生した.癌腫別では肺癌が最多で,大腸癌,白血病,膀胱がんが続いた.脳・中枢神経系の癌の発生は1,500件,12位であった.最も多くの癌が誘発されると予測されたのは,成人における腹部・骨盤CT検査であり,全体の誘発癌の37%を占めた.

【評価】

少しショッキングな研究結果である.全身のいずれかの部位の1回のCT検査(26%が頭部CT)を受けた米国民は,将来,この1回の放射線被曝によって約1,000人に1人が癌を発症することになるというものである.小児(約50%が頭部CT)では1回の検査あたりの発癌リスクが高く,特に1歳未満の女児では1,000人あたり20人が癌を発症することになるという.
近年,小児期の頭頚部CTによる脳腫瘍発生のリスクを指摘する研究結果が相次いで発表されている(文献1-5).2022年に発表されたEPI-CT研究では,22歳未満で初回の頭頚部のCT検査を受けた患者における悪性脳腫瘍発生の相対リスクは1.5で,10万人・年あたりの過剰絶対リスクは1.1(95% CI 0.6~1.6)であった(文献5).すなわち小児に対する1回の頭部CT検査はその後10年の間に1人/1万人の頻度で悪性脳腫瘍を誘発する可能性が示されている.
もちろん本稿の研究は,CT検査を受けた患者と,対照(CT検査を受けなかった患者)を長期追跡して発見された癌の実数の比較に基づくものではない.根拠となった被曝放射線量毎の発癌リスクは広島・長崎の原爆被爆者約12万人を対象とした長期コホート研究(LSS:Life Span Study)(文献6,7,8)をベースとしたモデル(BEIR VII)を用いている(文献9).今後は何らかの方法で,対照コホートをおいた研究で,CT検査の発癌リスクがより明瞭になることを期待したい.
いずれにしても現段階では,CT検査は必要最小限にする,できるだけ線量を低減するなどの配慮は絶対必要であろう.MRIがスタンバイしている施設では,頭痛を訴えて救急外来を受診した患者でもMRI優先という選択肢もあろう.交通事故のように,頭部を含む全身打撲の患者でも,高エネルギー損傷でなければ,頭から骨盤部まで全体のCTというようなオーダーは避けて,頭部CTだけを撮って,他部位は理学的検査や超音波検査の結果をもとにオーダーするというのも選択肢かも知れない.

執筆者: 

有田和徳

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