ビデオゲーマーが脳外科手術の名手になるかも:エクソスコープの時代

公開日:

2025年7月10日  

Video gaming facilitates adaptation to surgical exoscopes - a laboratory experiment

Author:

Yousfi A  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Helsinki University Hospital, University of Helsinki, Helsinki, Finland

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ジャーナル名:Acta Neurochir (Wien).
発行年月:2025 Jun
巻数:167(1)
開始ページ:177

【背景】

脳神経外科手術でも外視鏡(エクソスコープ)の導入が進んでいる(文献1-4).しかし,モニターに投影されたデジタル3D空間内での操作には特有の慣れが必要である.このような3Dモニター慣れが進んでいるのは,いわゆるビデオゲーマー達であるが,彼らはエクソスコープへの適応が早いのであろうか.
ヘルシンキ大学脳外科は,医学部2年生20人を,これまでに1,000時間以上ビデオゲームの経験があるゲーマー11人と500時間未満の非ゲーマー9人に分け,エクソスコープ下でのタスクの精度と時間の比較を行った.1回のタスクは,下拡がりの円筒の底面の隅に配置された6個の7 mm径のディスクの全てに6-0ナイロン糸を通すこととした.

【結論】

タスクは連続3回行うように指示された.
その結果,ゲーマーは非ゲーマーと比べて,3回のタスク完了までの時間が短かった(中央値10分14秒 vs 13分01秒).ゲーマーは非ゲーマーと比べて,エクソスコープを動かしたり,傾けたりする頻度が少なかった(p =.01).
両グループともタスクの回数が増える毎に1回のタスク完了時間が短縮した.
ゲーマーは3D感覚が発達しているために,エクソスコープにより早く適応するかも知れない.

【評価】

そんなもん当たり前だろうというような結論だが,敢えて2群に分けて実験したのがえらい.Acta Neurochirurgicaの原著論文(IF 2.2)としての充分な価値があるのかも知れない.
面白いのは,先行研究で,ゲーマーをビデオゲーム経験時間100時間以上と定義して,それ以下の非ゲーマーと比較した場合,開頭手術モデルにおける解剖学的構造の確認に要した時間に有意差はなかったことである(文献5).本稿はビデオゲーム経験1,000時間以上のゲーマーを対象とした研究であり,このいわばハード・ゲーマーは,エクソスコープ下でのタスク完遂時間が非ゲーマーより短かった.同様に,ゲーマーはロボット手術や腹腔鏡下手術でも優れた適応を示すようである(文献6-9).医学部2年生で,過去の1,000時間以上のビデオゲーム経験時間がどのくらい凄いのかわからないが,少なくとも部活,スポーツ,恋愛に費やす時間は乏しかったはずである.
しかし,本研究で,ゲーマーと非ゲーマーともにタスクを重ねる毎にタスクの完了時間が短縮したことで示されているように,大切なのは実践的トレーニングであって(文献10),若年期のビデオゲーム耽溺時間ではないように思われる.くれぐれも世の中の脳外科指導者たちが,例えば5,000時間越えのシリアス・ゲーマーを優先して脳外科レジデントにリクルートすることがないように祈りたい.

執筆者: 

有田和徳

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