コイル塞栓術後の動脈瘤に対する開頭手術は有効か:39報874例のメタアナリシス

公開日:

2025年7月10日  

Microsurgical management of 883 previously coiled intracranial aneurysms: a systematic review, meta-analysis, and meta-regression of its effectiveness and safety

Author:

Gurian O  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Barrow Neurological Institute, St. Joseph’s Hospital and Medical Center, Phoenix, AZ, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:40408874]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2025 May
巻数:Online ahead of print.
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【背景】

脳動脈瘤の大半が血管内手技で治療ができる時代となったが,血管内手技の後に開頭術が必要となるケースも多い.このような“救援手術”に関する大規模研究は少ない.テキサスBNIのLeeらは過去の39報874例のメタアナリシスを行った.対象例の内訳は,コイル塞栓術を企図したがコイルの挿入ができなかったA群45例,コイル塞栓を行ったが不完全閉塞または再発となったB群806例,血管内手技に起因する合併症に対して開頭術を要したC群32例であった.動脈瘤径は7 mm未満が45.3%,7–12 mmが31.3%,13–24 mmが14.6%,25 mm以上が8.8%であった.動脈瘤は81.4%が破裂瘤で,88.2%が前方循環系であった.

【結論】

開頭術の内訳は,クリッピング74.3%,コイル摘出を伴うクリッピング18.9%,バイパス5.0%,トラッピング1.8%であった.術中破裂は0.1%,周術期脳梗塞は8.2%,周術期死亡は3.7%,完全閉塞は97.2%,最終フォローアップ段階の良好な機能予後(mRS:0–2 or GOS:4–5)は82.9%,機能改善/不変は92.3%であった.
特に未破裂の前方循環系の動脈瘤に対するクリッピングは,術中破裂,周術期脳梗塞および死亡の発生率が低く,完全閉塞,良好な機能予後および神経学的改善/維持の割合が高かった.コイル塞栓術後1ヵ月以内の開頭術,およびC群の動脈瘤は,周術期死亡率が高かった.

【評価】

脳動脈瘤に対する血管内治療が普及するなか,コイル塞栓が不十分に終わるケースや,塞栓術後に再発する動脈瘤の治療が新たな課題となっている(文献1,2,3).少し古いデータであるが,ISAT研究では,コイル塞栓術を受けた患者の26%が不完全閉塞または頚部残存を示し,8%に動脈瘤の残存が認められ,最終的に17.4%の患者が再発または残存のために再治療を要した(文献4).CARAT研究では,閉塞率が70%未満の症例において,再破裂率は平均4年の追跡期間で最大17.6%であった(文献5).一方,再コイリングは一部の症例で有効であるが,最大で約50%の症例が更なる治療を要するとの報告もある(文献6,7).
本報告は,コイル塞栓術後の開頭による救援手術(Salvage Surgery)の有効性と安全性に関するメタアナリシスである.開頭手術の主な適応は,91%が部分的閉塞または初回完全塞栓後の再発で,開頭手術の手技は93%がクリッピングで,そのうち19%がコイル摘出を伴っていた.その結果,本コホートでは,完全閉塞率97.7%,良好な機能予後83.0%,および許容範囲の死亡率(3.4%)が示された.すなわち,救援手術としての開頭手術は,適切に選択された患者においては,安全かつ有効な治療選択肢であることが示されている.特に,小型瘤や未破裂瘤では完全閉塞率,良好な機能予後ともに高かった.
この結果を受けて著者らは,コイル塞栓術後の動脈瘤のクリッピングについて,特に若年者における,完全閉塞後の急速なネック再開通や不完全閉塞後のネック拡大を最も良い対象(Strongly favorable)として挙げている.
ただし,ISATやCARATの報告以降の血管内治療手技や機材の急速な進歩により,完全閉塞率が向上し,再発・再治療率が低下しているのは事実であろう(文献8).また,再治療としての血管内治療手技も改善している.
したがって今後は,比較的最近に血管内治療を受けた患者について,その後に,再治療としての開頭術が必要になる患者がどのくらいの頻度であるのか,再度の血管内治療と比べての有効性と安全性はどうなのか,前向き研究が必要と思われる.
さらに,当然ながら,動脈瘤の部位によっても開頭手術の難易度は異なってくる.本研究コホートでも,後方循環動脈瘤では前方循環動脈瘤と比べて術中破裂率は高かった.一方,後方循環動脈瘤では血管内治療の方が安全性が高いと考えられている.すなわちコイル塞栓術後の再発に対する開頭手術の選択とその転帰の評価にあたっては,動脈瘤の発生部位毎の解析が必須と思われる.この点も今後の課題である.

執筆者: 

有田和徳