くも膜下血腫の積極的な灌流・洗浄除去(ABCD)が遅発性脳梗塞を予防する:フライブルク大学の破裂動脈瘤960例の経験

公開日:

2025年9月21日  

最終更新日:

2025年9月23日

Decreasing delayed cerebral infarction after aneurysmal subarachnoid hemorrhage using active blood clearance and prevention of delayed cerebral ischemia: results of a 16-year patient registry

Author:

Roelz R  et al.

Affiliation:

Departments of Neurosurgery, Medical Center–University of Freiburg, University of Freiburg, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:40479830]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2025 Jun
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

動脈瘤性くも膜下出血(aSAH)患者の約3-4割に発生する遅発性脳梗塞(DCI)に対する有効な対処法は未だ確立されていない.フライブルク大学脳外科のチームは2008年以降15年間に経験したaSAH患者960例の経験を基に,くも膜下血腫の積極的な灌流除去がDCIの発生率,予後に与える影響を検討した.
DCI予防のために全症例に経口ニモジピンが21日まで投与された.2015年10月以降に入院した417例では,くも膜下血腫量が多いなどの理由でDCI高リスクと判断された患者139例(33.3%)には,ウロキナーゼ(100-200 IU/ml)入りリンゲル液(50 ml/H)とニモジピン(血管れん縮発生時にリンゲル液に添加)を用いた灌流法による髄腔洗浄(ABCD)の4手技のうち1つを行った.

【結論】

ABCDの4手技のうち,①定位的な第3脳室・脳底槽カテーテル留置は88例,②終板開窓による第3脳室内カテーテル留置は30例,③側脳室カテーテル-腰椎カテーテル灌流は18例,④腰椎カテーテル-腰椎カテーテル灌流は3例で行われた.ウロキナーゼは通常5〜7日間使用し,灌流洗浄は2-3週間維持した.
DCIの発生は,2015年10月にABCDが導入される前の543例では21.2%であったが,ABCD導入後の417例では7.7%に減った(p <.0001).1例あたりのDCI体積は導入前の38.6 cm³から導入後の11.7 cm³へと減少した.くも膜下出血量が多い(Hijdraスコア ≥30, 文献1)患者における6ヵ月目の転帰良好例(mRS ≤3)は,ABCD導入後が有意に多かった(26% vs 9%,p =.006).

【評価】

遅発性脳梗塞(delayed cerebral infarction,DCI)は脳動脈瘤破裂後の患者の30〜40%に発生するが(文献2, 3),動脈瘤性くも膜下出血(aSAH)による血液分解産物が脳動脈の持続的な収縮(脳血管れん縮)を引き起こすことによって起こる(文献4, 5).DCIは機能的転帰不良と強く相関し,発症患者の80%が障害を残すか死亡する(文献6).血管れん縮によるDCIを予防する方策として,欧米では古くから経口ニモジピン投与が行われており(文献7, 8),本邦では以前はファスジルが,近年はクラゾセンタンの投与が行われている(文献9, 10).しかし,これらの薬剤を用いてもその発生を完全に抑制することはできていない.
血管れん縮の元凶であるくも膜下腔の血腫とその代謝産物を早期に除去できれば,くも膜下出血後の血管れん縮は抑制できるはずである.腰椎ドレナージによる受動的な血腫クリアランスの有効性は複数のRCTで示されてきたが(文献3,11,12),それでもDCIの発生率は30%前後と高い(文献2).本研究は,ウロキナーゼ入りリンゲル液(50 ml/H),ニモジピン(血管れん縮発生時に0.01 mg/ml)を用いた灌流法による髄腔洗浄による積極的なくも膜下血腫の除去(ABCD)の効果を解析したものである.その結果,2008年から2015年10月までの経口ニモジピンだけの症例群と比較して,DCIのリスクが高そうな症例(くも膜下血腫量が多い患者など)にABCDを行った2015年10月以降の症例群では,DCIの発生率は有意に低く,DCIの体積は小さかった.6ヵ月めの機能予後良好(mRS ≤3)は全症例では2群間で差はなかったが,特にくも膜下血腫量が多い患者(Hijdraスコア>30)ではABCD群で有意に高かった.
そうであるとすれば,くも膜下血腫量が特に多い患者を対象にこの灌流法による髄腔洗浄を行えば良いということになる.それでは,本シリーズで用いた4つの手技(灌流ルート)のどれを用いるべきか.著者らは前交通動脈などに対する開頭手術で容易に終板を開放できる症例では経終板カテーテルを,そうでなければ経脳室カテーテル-腰椎カテーテル灌流か,腰椎カテーテル-腰椎カテーテル灌流を推奨している.
いずれの方法でもリンゲル液の持続投与による急激な髄液圧上昇を招かないように著者らが用いている圧制御式注入システムは必須であろう.
一方,日本で普及してきたクラゾセンタンの投与に加えたこのくも膜下血腫の灌流除去の有効性の検討は今後の課題であろう.

執筆者: 

有田和徳

関連文献