公開日:
2025年9月23日最終更新日:
2025年9月23日Lumbar Drain Infection Rates: A Comprehensive Risk Factor Analysis From a Multicenter Retrospective Study of 1000+ Cases
Author:
Mirza AB et al.Affiliation:
Department of Neurosurgery, King's College Hospital NHS Foundation Trust, London, UKジャーナル名: | Neurosurgery. |
---|---|
発行年月: | 2025 Jul |
巻数: | Online ahead of print. |
開始ページ: |
【背景】
腰椎ドレーン(LD)の感染は脳外科の日常臨床で遭遇するありふれたトラブルであるが,そのリスク因子についてはよくわかっていない.本稿はキングス・カレッジ病院など英国の主要な4病院の脳外科で,2009年からの15年間に実施された1,017件のLDにおける感染の発生率,リスク因子を解析したものである.患者平均年齢は49歳.LD挿入の疾患別適応は,頭蓋底手術33%,脳血管疾患(くも膜下出血を含む)20%,脳腫瘍10%,脊椎疾患7%,機能性疾患(正常圧水頭症を含む)23%,外傷その他7%であった.LD挿入の理由は髄液漏出の修復47%,水頭症24%,診断目的13%,予防目的13%などであった.
【結論】
LD留置期間は平均6日であり,全体の感染率は11.4%であった.
単変量解析では,LD感染のリスク増加因子は,術前の経口ステロイド使用,髄液ドレナージの既往,LD留置期間2日以上,時間外の一次手術,穿刺部からの髄液漏出であった(p <.05).LD感染のリスク減少因子は,一次手術中のLD留置,上記に挙げたLD挿入の理由であった(p <.05).
多変量解析では,LD感染のリスク因子は,経口ステロイド使用,一次手術から7日以降のLD留置,LD挿入前の髄液ドレナージなし,LD挿入後2日以降のLD抜去,時間外の一次手術,LD挿入後2日以降の穿刺部からの髄液漏出,LD挿入後3日以降のドレーン離断,LD挿入後2日以降の穿刺部出血であった(p <.05).
【評価】
腰椎ドレナージ(LD)の留置は,脳神経外科において,脳脊髄圧のコントロールや脳室内出血,くも膜下出血排除の手段として頻用されている(文献1,2).しかし,4-15%で発生するLDドレーンの感染は重篤な合併症であり(文献3-6),機能予後不良および高い死亡率と相関する(文献6).この後方視研究は,英国の4つの主要な三次医療センターにおいて,最近15年間にLDが挿入された1,000例あまりを対象として,LD感染のリスク因子を検討したものである.その結果,LD感染率は11.4%で,感染のリスク因子として,多変量解析では①経口ステロイド使用,②一次手術から7日以上経過後のLD挿入,③LD挿入前の髄液ドレナージなし,④留置後2日以上経ってからのLD抜去,⑤時間外の一次手術,⑥LD挿入後2日以降の穿刺部からの髄液漏出,⑦LD挿入後3日以降のドレーン離断,⑧LD挿入後2日以降の穿刺部出血が挙がった.
このうち経口ステロイド使用,時間外の一次手術(おそらく緊急手術),LD挿入後2日以降の穿刺部からの髄液漏出,LD挿入後3日以降のドレーン離断,LD挿入後2日以降の穿刺部出血がリスク因子となり得ることは容易に想像可能である.かたや,LD感染のリスク要因と判明した因子のうちで,一次手術から7日以上経過後のLD留置については,著者らは,これは術後の合併症や回復の遅れによる入院の長期化を反映している可能性があると述べている.LD挿入前の髄液ドレナージなしは逆説的に見えるが,明確な説明はない.一方,留置後2日以降のLD抜去に関しては,著者らも既報の4-6日(文献7,8,9)に比べればかなり短いことを認識しており,必要なドレナージ期間の途中での抜去ではなく,LDが臨床的役割を果たした時点で速やかに抜去することを推奨すると述べるにとどまっている.
逆にLD感染のリスク減少因子としては,一次手術中のLD留置が挙がっている.髄液ドレナージが必要となりそうな症例では,数日経過を見てからではなく,一次手術の時にLD留置を行っておくべきなのかも知れない.抗菌剤の使用に関しては,術前,一次手術時,術後(LD挿入後)の抗菌薬投与,抗菌薬の種類,起因菌,一次手術での抗菌薬終了からLD挿入までの期間はいずれも感染リスクに影響しなかった.
なお,一次手術後の手術部位髄液漏の患者208例のサブグループ解析では,一次手術からLD挿入までの平均期間は21.8日であった.多変量解析では,この群におけるLD感染のリスク因子として,LD抜去までが8日を超えたことや髄液採取回数が4回を超えたことなどが挙がっている.やはりLD留置期間は最短にとどめ,不要なサンプリングを回避することが必要なことを示唆している.
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Chang PJ, et al. Continuous cerebrospinal fluid drainage using a lumbar subarachnoid catheter for cerebrospinal fluid rhinorrhea after functional endoscopic sinus surgery. Acta Anaesthesiol Sin. 40(2):97-99, 2002
- 2) Yeo NK, et al. The effectiveness of lumbar drainage in the conservative and surgical treatment of traumatic cerebrospinal fluid rhinorrhea. Acta Otolaryngol. 133(1):82-90, 2013
- 3) Schade RP, et al. Bacterial meningitis caused by the use of ventricular or lumbar cerebrospinal fluid catheters. J Neurosurg. 102(2):229-234, 2005
- 4) Açikbaş SC, et al. Complications of closed continuous lumbar drainage of cerebrospinal fluid. Acta Neurochir (Wien). 144(5):475-480, 2002
- 5) Coplin WM, et al. Bacterial meningitis associated with lumbar drains: a retrospective cohort study. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 67(4):468-473, 1999
- 6) Leverstein-van Hall MA, et al. A bundle approach to reduce the incidence of external ventricular and lumbar drain-related infections. J Neurosurg. 112(2):345-353, 2010
- 7) Liang H, et al. Risk factors for infections related to Lumbar drainage in Spontaneous Subarachnoid haemorrhage. Neurocritical Care. 25(2):243–249, 2016
- 8) Hussein K, et al. Risk factors for meningitis in neurosurgical patients with cerebrospinal fluid drains: prospective observational cohort study. Acta Neurochir (Wien). 161(3):517-524, 2019
- 9) Tunkel AR, et al. 2017 Infectious Diseases Society of America's Clinical Practice Guidelines for Healthcare-associated ventriculitis and meningitis. Clin Infect Dis. 64(6):e34-e65, 2017